世界ランキング95位のレシヤ・ツレンコ(ウクライナ)がWTA(女子テニス協会)の会長との会談が原因で、「WTA1000 インディアンウェルズ」(アメリカ・インディアンウェルズ/3月8日~3月19日/ハードコート)の3回戦を棄権したことを明かした。英スポーツメディア Sky Sportsなど複数のメディアが報じている。
ツレンコは「WTA1000 インディアンウェルズ」の1回戦で世界33位のジュ・リン(中国)を、2回戦で第29シードのドナ・ベキッチ(クロアチア)を退けていたが、第2シードのアリーナ・サバレンカ(ベラルーシ)との3回戦を直前で棄権している。当初は個人的な理由だとしていたツレンコは、数日前に行われたWTAのスティーブ・サイモン会長との話し合いが原因で、コートに出る直前にパニック発作を起こしていたと試合の翌日に明かした。
ロシアによるウクライナ侵攻について話し合ったというツレンコは、サイモン会長に「私自身は戦争を支持していないが、ロシアやベラルーシの選手が支持しているのであれば、それはあくまでその人自身の意見であり、あなたが他人の意見に動揺する必要はない、と言われた」と述べ、「同時に彼は、もしこれが自分の身に起こっていたらつらい思いをしていただろうとも言っていたわ」と続けている。
「ウィンブルドン」を運営するAELTC(オールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブ)とイギリス国内のほかの大会を運営するLTA(イギリステニス協会)は昨年、ロシアとベラルーシの選手を締め出し、ATP(男子プロテニス協会)とWTAと対立するこことなった。6月中旬から始まるイギリスでのグラスシーズンに向けてAELTCとLTAが対応を迫られる中、今年は両国の選手を出場させるだろうという見方が強まっている。また、2024年の「パリオリンピック」をめぐってもイギリスの政府代表を含む34ヶ国のグループがIOC(国際オリンピック委員会)に両国選手の出場禁止令を出すよう求めており、今後の動向が注目される。
このような状況の中、サイモン会長は両国選手が出場することを示唆したとツレンコは言う。「彼はロシアとベラルーシの選手がオリンピックに出場することに自信を見せ、テニスで今進んでいることとまったく同じことが起こると言っていた。彼はまた、(両国選手の出場は)フェアプレーとオリンピックの原則に違反していないどころか、むしろそれに則っているとも言ったの。私の母国に対するロシアの軍事的な侵略が活発な状況で、私に何を語っているのかを理解しているのかと聞くと、彼は“イエス”と答えたわ」
「この会話にすごく大きなショックを受けて、前回の試合(ベキッチ戦)でさえプレーするのがしんどかった。(続く3回戦で)コートに出ようと思ったらパニック発作に襲われて、どうしても出ることができなかった。精神的に滅入ってしまっていたの」
彼女とサイモン会長の会話の内容を知ったほかのウクライナ人選手も同様にショックを受けているとツレンコは話す。「どうやったらスティーブ・サイモンのような人がWTAのリーダーになれるのかということを問いただすために、WTA理事会との電話会議を要請したわ。こんな状況で、私たちの組織が何らかの形で私たちの権利を守っているだなんて理解できない。こんなことを説明しなければならないこと自体、理解しがたい。とても驚いているし、傷ついている」
ツレンコの発言を受けてWTAは声明を出した。「何よりもまず、我々はレシアをはじめとするすべてのウクライナ人選手がこの非常に困難な時期に抱えている感情を認識している。WTAは一貫してウクライナへの全面的な支持を示し、ロシア政府による行動を強く非難してきた。その上で、WTAの基本原則に則り、個々の選手が実力に基づいて、いかなる形の差別もなくプロのテニス大会に参加でき、自国の指導者による決定によってペナルティを受けないことを保証する」
別のところでは、ウクライナ人選手たちが「全豪オープン」までは受けられていた、大会出場に伴う宿泊費用などの援助を今後も受け続けられる保証がないことも話題になっている。
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は「WTA1000 インディアンウェルズ」でのツレンコ
(Photo by Robert Prange/Getty Images)