今年でWTA(女子テニス協会)が発足して50年。この50年の間に女子テニス界は大きく変わり、世界の様々な国の選手がツアーで活躍するようになった。世界的スポーツとなったテニスの現状を、現役スター選手らが語った。WTAの公式ウェブサイトが伝えている。
先月、中東で大会に出場したマリア・サカーリ(ギリシャ)は、関わった人々がテニスに精通していることに嬉しい驚きを味わったという。大きな要因となっているのは、オンス・ジャバー(チュニジア)の活躍だろう。ジャバー自身も、カタールで行われたサッカーワールドカップを観戦した際にそれを感じたという。
「チュニジアの試合を観戦しに行ったの。たくさんの人が私を見て喜んでくれてすごかった」と「WTA1000 インディアンウェルズ」の会場でジャバーは語った。「それと、チュニジアでテニスをプレーしている人の数を聞いた。どんどん増加しているの。とても勇気づけられる。もっと頑張ろうってモチベーションになっているわ」
ジャバーは昨年の「ウィンブルドン」と「全米オープン」で準優勝し、自己最高の世界ランキング2位に到達。いずれもアフリカ大陸出身選手、そしてアラブ系女子選手として初めてのことだった。チュニジアテニス連盟によると、ジャバーが世界的に活躍するようになってから、競技人口は3倍に増えたという。ジャバーは間違いなく先駆者であるが、彼女のようなケースは世界の至る所で、より頻繁に見られるようになってきている。
WTAツアーが発足した1973年は、一握りの選手に力が集中していた。シングルス65大会のトロフィーは、5ヶ国の選手が全て獲得。特にマーガレット・コート(オーストラリア)が率いるオーストラリアとビリー・ジーン・キング(アメリカ)率いるアメリカの選手が、うち50大会で優勝を飾った。
2022年まで時を進めると、世界のエリートテニス界は全く異なる勢力図を示すようになった。昨年行われた55大会では、35人の選手が優勝し、その出身地は21ヶ国に上った。世界女王のイガ・シフィオンテク(ポーランド)が8大会を制したが、他にもシモナ・ハレプ(ルーマニア)、マヤル・シェリフ(エジプト)、エレナ・ルバキナ(カザフスタン)、ペトラ・マルティッチ(クロアチア)、ジャン・シューアイ(中国)など、世界各地から優勝者が出た。
「WTA1000 インディアンウェルズ」にも、ダンカ・コビニッチ(モンテネグロ)、アンナ カロリーナ・シュミドローバ(スロバキア)、アンナ・ボンダール(ハンガリー)など、31ヶ国96人の選手が出場している。
ギリシャ女子テニス界の先駆者であるサカーリも、このグローバル化の流れの中心的存在だ。
「それがキーワードなの。テニスは世界的なスポーツになった。様々な国出身の、様々な文化を持つ、様々な人が大会で優勝して、世界中にテニスを宣伝している。ステファノス・チチパス(ギリシャ)と私の前は、ギリシャでテニスの存在感は大きくなかった。でも今は3番目に人気のスポーツなの。空いているテニスコートを見つけることや、テニススクールやアカデミーで空きを見つけることがすごく難しくなった。ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が“テニスは多分世界で4番目に人気のスポーツだと思う”って言った時、色々な文化を持つ様々な選手が、それを達成するのを助けたんだと気付いたの」
実際の数字を把握するのは難しいが、テレビ中継の視聴率からいうと一般的にサッカー、クリケット、そしてフィールドホッケーが世界三大スポーツと言える。データ次第だが、それに続くのがテニス、またはアイスホッケーだ。
テクノロジーはどんどん世界を小さくしてきた。そしてテニス強国でない国の人でも、試合を見ることが可能になった。インターネットが発達し、SNSが普及したことで、選手をより身近に感じられるようになり、テニスは新たなファン層を獲得した。現在ではほとんどのATP(男子プロテニス協会)やWTAの試合が視聴可能となり、場合によってはチャレンジャー大会やITF(国際テニス連盟)の大会も見ることができる。
したがって、ポーランドで育ったシフィオンテクが世界トップクラスのテニスに触れることができたのも驚くべきことではない。シフィオンテクはアグネツカ・ラドバンスカ(ポーランド)に刺激を受け、さらに努力を重ね現在の地位を勝ち取った。
「スポーツで素晴らしいのは、どこで始めたかは関係ないということ」と「WTA1000 インディアンウェルズ」2連覇を狙うシフィオンテクは語る。「才能があって、努力を続けられれば、必ず成功する。もちろん、ポーランドでは子供たちにスポーツをうまくプレーすることを教えるインフラが整っている。でももっとコートや、プレーする機会を増やすことはできる。それは今から変えることが出来るし、今後はもっと選手が増えると思うわ」
「もっとしっかりとしたシステムがあって、援助が受けられた選手よりは、私はずっと色々な経験をしてきたと思う。でも一方で、その経験のおかげでテニスは私にとってとても特別なものになっている。あまり援助を受けずにきて、父には多くの責任が伴ってしまったけれど、それを誇りに思っているわ」
もちろん金銭的に余裕がある家庭に育てば、トップ選手への道は開けやすい。だが才能を持ち、大志を抱ける選手ならば、運を味方につけトップレベルへと昇っていくことはできる。テニスのそういうところが好きだと世界3位のジェシカ・ペグラ(アメリカ)は言う。
「もちろんより多くの資金があって、多くの選手がいる国はあるけれど、それができるということは素晴らしいこと。他のスポーツにはないと思う。今世界的に普及してきて、このスポーツをプレーする人が増えている。だからこそ、成功を収める国が増えているんだと思う。多分、だからこのスポーツに投資する国が増えているのよ」
素晴らしい結果を残したジャバーは、ロールモデルとなり、多大な影響力を持つようになった。ジャバーは特に子供たちとの関わりを大事にしているという。
「子供たちにフォアハンドやバックハンドについて聞かれることがあるの。とても可愛いわ。“何をしたらいいの?”って聞かれること自体が本当に素晴らしいことよ。時々、何て答えていいかわからない時もある」
その答えは、シフィオンテクなら良いプレーをし続けることと言うだろうし、サカーリの言葉を借りれば、テニスの魅力を宣伝することだ。
「今、大きな盛り上がりを見せていると思う。それを利用してもっと人気を高めて、もっと手の届くものにしたい」とシフィオンテク。「将来の私の目標になるのは確かね。今は傍らに掲げている目標ってところかな。今はそれよりも、自分のキャリアやコートで何をするかに集中しているから。成功して、良い試合をすれば、いずれきっと叶うと分かっているから」
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は2022年「WTA1000 ローマ」でのシフィオンテク(左)とジャバー
(Photo by Robert Prange/Getty Images)