数年前からロシア選手と組んでダブルスに出場するウクライナ選手が、ロシア選手を大会から締め出すことに反対している。伊ニュースサイト UBI Tennisなど複数のメディアが報じた。
ダブルスの選手として現在ウクライナ男子選手の中で2番目に高い順位(世界ランキング123位)につけているオレグ・プリホチコは、昨年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まってからも、周りの反対を押し切って同334位のヤン・ボンダレフスキー(ロシア)と大会に出場している。ボンダレフスキーのことを友人と呼ぶプリホチコは、2020年11月にスペインで行われたITF(国際テニス連盟)の大会に一緒に出場したのを機にこれまで何回もペアを組んでおり、優勝も2度経験。ボンダレフスキーと出場することについてプリホチコはこう話している。
「彼は僕の友人だから、ロシア人であっても(侵攻後に)何回か一緒に大会に出ている。僕にとって国籍は関係ない。人は国籍ではなく、どういう行動を取るかによって判断されるべきだと思っている。僕にはロシアやベラルーシ出身の友達が何人もいる。ガールフレンドだってロシア人だ。みんなあらゆる面で僕のことを助けてくれているし、いつも戦争反対を訴えている。だから、自分が何か悪いことをしたとは思っていないよ」
「確かに、ウクライナのテニス連盟からロシア人と一緒にプレーしないようにと勧告を受けたことはある。でも、僕には僕の考えがあるから、連盟の言いなりになるのではなく自分の思うように行動した」
テニス界では昨年に「ウィンブルドン」を運営するAELTC(オールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブ)とイギリス国内のほかの大会を運営するLTA(イギリステニス協会)がロシアと同盟国ベラルーシの選手を締め出したことで、ATP(男子プロテニス協会)、WTA(女子テニス協会)と対立することに。6月中旬からイギリスでのグラスシーズンが始まる中、AELTCとLTAが今年は両国の選手にどう対応するかが注目されている。また、2024年の「パリオリンピック」をめぐっても同様の議論が続いており、イギリスやアメリカ、フランスの政府代表を含む34ヶ国のグループは先月、IOC(国際オリンピック委員会)に両国選手の出場禁止令を出すよう求める書簡に署名していた。
禁止令についてプリホチコはこう語っている。「一般的に、アスリートに対するこのような非難は、対立をよりいっそう助長するものだと思う。そうやって選手たちはコートの内外で対立するようになり、戦争の道具と化して、スポーツの基本原理を忘れてしまう。ベラルーシとロシアの選手をオリンピックから締め出すというのは、一人のアスリートとして理解できない。どの選手にとってもこれは人生をかけて追いかけてきた夢だ。スポーツは人と人を結びつけるものだと僕は信じている。大昔はオリンピックが開催されるとすべての戦争が停戦状態になったものだけど、今は戦争の一部になってしまった」
プリホチコはInstagramの自身のプロフィールにウクライナの旗を表示していないことで批判されたこともあるという。しかし彼はそうしなくてもみんな自分の国籍を知っているはずだとして、「ソーシャルネットワークの中よりも現実世界でもっと活動するべきだ。僕はウクライナの人々をできる限り助けようとしていて、そっちの方がよっぽど意味のあることだと思っている」と述べている。
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は握手の代わりの「ラケットタップ」
(Photo by Alex Davidson/Getty Images for LTA)