先週の「ATP500 アカプルコ」では、世界ランキング125位だったダニエル太郎(日本/エイブル)が、トップシードのキャスパー・ルード(ノルウェー)の2度のマッチポイントをしのいで試合を制した。崖っぷちから逆転して勝利を掴むことは、他のどんなこととも似ていない。アンディ・マレー(イギリス)とアンドレイ・ルブレフ(ロシア)がよく知っているように。ATP(男子プロテニス協会)公式ウェブサイトが報じている。
マレーとルブレフはそれぞれ、2023年に戦った3試合で1度以上のマッチポイントを防いで勝利している。シーズンが始まってからまだ2ヶ月ということを思えば、すごい数字だ。今季に入ってからATPツアーで見られたこうした逆転勝利のうち、実に27%以上(22試合中6試合)が、この2人のものとなっている。2023年に2人がマッチポイントを阻んで勝利した試合は、次の通りだ。
マレー
「全豪オープン」1回戦、対マッテオ・ベレッティーニ(イタリア):MP1回
「ATP250 ドーハ」1回戦、対ロレンツォ・ソネゴ(イタリア):MP3回
「ATP250 ドーハ」準決勝、対イリ・ラフェチュカ(チェコ):MP5回
ルブレフ
「全豪オープン」4回戦、対オルガ・ルーネ(デンマーク):MP2回
「ATP250 ドーハ」2回戦、対タロン・グリークスプア(オランダ):MP3回
「ATP500 ドバイ」2回戦、対アレハンドロ・ダビドビッチ フォキナ(スペイン):MP5回
このうち一番最近の大逆転劇は「ATP500 ドバイ」で、ルブレフが第2セットのタイブレーク1-6の場面から5ポイント連続でマッチポイントを阻止し、フルセットでダビドビッチ フォキナを下した試合だ。これは、現在世界7位のルブレフがマッチポイントをしのいで勝利を挙げた大会としては連続3大会目であった。ルブレフはこうした勝利がもたらす独特の感情についてこう語っている。
「こういう試合は、終わってみて何とかして自分が勝っていると、いつだって特別だ。うまく言葉で表現できない。ある時は運が良かったと感じるし、ほとんど負けかけたところから勝ったから、すごく感情的になることもある。これが3度目ともなると、もうあとはない、不可能だ、間違いなくもう終わりだと思う」
ルーネとグリークスプア、そしてダビドビッチ フォキナからの逆転勝利は、以前はルブレフはこうした流れの中で逆転負けを喫する方が多かったことを思えば、特に歓迎すべきことだろう。2015年以来、ルブレフはマッチポイントを少なくとも1回握った試合で5度敗れている。一番最近のものは、2021年の「ATP250 モスクワ」でのアドリアン・マナリノ(フランス)戦だ。そして2015年から昨年までにマッチポイントを阻んで勝利したのは、1試合だけであった。
「こういうことが一度もないと、“もしかしたら今日は運良くそうなるかもしれない”と希望を持つこともある。“全豪オープン”とドーハとドバイの過去3大会で、3大会続けて3度も幸運が続くと、もう、“あといくつクリスマスプレゼントをもらえるだろう?”って感じだよ」とルブレフはドバイで語った。
これとは対照的に、マレーのファンは長年、心臓が止まりそうな逆転勝利に慣れている。2015年から2022年までに、マレーがマッチポイントを少なくとも1回しのいで勝利したのは5試合ある。逆に2015年以降にマレーがマッチポイントを握ったものの最終的に敗れたのは、1試合だけ。2021年の「ATP1000 パリ」で、7回のチャンスを決め損ねてドミニク・コプファー(ドイツ)に敗れた試合だ。
しかしマレーの基準で見ても、2023年シーズンは劇的なものとなっている。「全豪オープン」ではベレッティーニのマッチポイントを1回防ぎ、5セットで勝利。その後「ATP250 ドーハ」ではソネゴとラフェチュカを相手に、マッチポイントをそれぞれ3回と5回阻んで勝利した。
「ATP250 ドーハ」準決勝でラフェチュカを6-0、3-6、7-6(6)で倒した後、マレーは信じられない様子でこう語った。「(どうやって勝ったのか)わからない。今日の試合は、僕の選手生活の中でも一番素晴らしい逆転劇の1つだ。知ってのとおり4-5でマッチポイントが3回あって、3-5の僕のサービスゲームでも2回あった。その先は、わからない」
マレーの人並み外れた努力は、「ATP250 ドーハ」決勝での彼との対戦を控えたダニール・メドベージェフ(ロシア)からの注目を逃れることはなかった。最終的にマレーをストレートで下して「ATP250 ドーハ」の栄冠を手にしたメドベージェフは、最後の一球まで集中を切らすことのないマレーの類まれな能力をこう表した。
「(マレーが今週成し遂げたことは)信じられないよ。相手がマッチポイントを握った時に、ようやく試合が始まるかのようだ」
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は「全豪オープン」で勝利の雄叫びをあげるマレー
(Photo by Clive Brunskill/Getty Images)