世界ランキング28位のダニエル・エバンズ(イギリス)が、2022年に運営するイギリス国内の大会からロシアとベラルーシの選手を締め出したLTA(イギリステニス協会)に対して、今年も同様のことをすれば運営権を剥奪すると警告しているATP(男子プロテニス協会)とWTA(女子テニス協会)に苦言を呈した。英BBCなど複数のメディアが報じている。
ロシアによるウクライナ侵攻を受けてATPとWTA、そしてITF(国際テニス連盟)は昨年、ロシアと同盟国ベラルーシの選手たちを「デビスカップ」や「ビリー・ジーン・カップ」などの国別対抗戦に出場することは認めなかったものの、中立の立場としてツアー大会への出場は許可した。そんな中、「ウィンブルドン」を運営するAELTC(オールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブ)とイギリス国内のほかの大会を運営するLTAは両国の選手を締め出し、ATPとWTAはその制裁として「ウィンブルドン」でのランキングポイントを付与しなかった。
さらに、WTAはAELTCに75万ドル(約1億円)、LTAに25万ドル(約3400万円)、合わせて100万ドル(約1億3600万円)の罰金を科し、ATPはLTAにのみ100万ドルの罰金を言い渡している。また、2023年の大会で再び両国の選手を締め出せば、LTAが保有する大会運営権を剥奪すると警告。現在LTAは「ウィンブルドン」に先立ち、「ATP500 ロンドン」、「ATP250 イーストボーン」、「WTA250 ノッティンガム」、「WTA250 バーミンガム」、「WTA500 イーストボーン」という5つの大会を運営している。なお、グランドスラムは各大会の運営団体に権限が与えられており、ATPとWTAの管轄下にはないため「ウィンブルドン」は警告の対象から外れる。
母国の状況を嘆くエバンズは、ATPとWTAに苦言を呈した。
「ロンドン大会が開かれないなんてことがあれば、残念すぎる。脅しは良くない。ATPは自分たちの安全を確保した上で相手を攻撃しているようなものだ。ロンドン大会はツアーで最高の、最も権威のある大会の一つで、ATPにも大きく貢献してきたはず。僕は概ねATPの立場を支持している。彼らは素晴らしいことをたくさんしてくれるけど、今回に限ってはもっと賢明な話し合いが必要だ。大会の運営権を取り上げるとLTAを脅すことが問題の解決につながるとは思えない」
「これはすべてのイギリス人選手に関わることだ。(運営権が剥奪されれば)ワイルドカード(主催者推薦枠)として出場する機会が失われてしまう。思慮分別が優先されるべきで、LTAだって難しい立場にいるんだ。この問題はテニス連盟や運営団体をはるかに超えている」
エバンズが言うように、AELTCとLTAはイギリス政府の意向に沿う形で両国の選手を締め出している。今年の「ウィンブルドン」(イギリス・ロンドン/7月3日~7月16日/グラスコート)開催が刻一刻と迫る中、WTAはすべての大会に両国の選手の出場を認めること、もしくはAELTCとLTAがイギリス政府とともに解決策を見出そうとする努力が十分に見られることを条件に、すでに支払われている罰金を半分の50万ドルに減らすとしている。コロナ禍の影響で財政的に大きな打撃を受けたLTAは、今回の罰金に加えて、さらに運営権剥奪の危機にも直面しており、非常に苦しい立場に追い込まれている。
ロシア、ベラルーシの選手の扱いをめぐっては、ATPのアンドレア・ガウデンツィ会長が先月、ロシアの侵攻を非難する一方で個々の選手に責任はないと改めて強調した。だが、元世界3位のエリナ・スビトリーナ(ウクライナ)や昨年1月の現役引退直後に母国の予備軍に入ったセルゲイ・スタコウスキー(ウクライナ)は、選手にも自国政府の行為に責任があるとして、引き続き大会から締め出すよう強く訴えている。
※為替レートは2023年3月2日時点
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は「ATP500 ロンドン」
(Photo by ATP Tour/Getty Images)