元世界ランキング21位のトーマス・ベルッチ(ブラジル)が、「ATP500 リオデジャネイロ」(ブラジル・リオデジャネイロ/2月20日~2月26日/クレーコート)で18年のキャリアに幕を閉じた。ATP(男子プロテニス協会)公式ウェブサイトなど複数のメディアが報じている。
最後の舞台として母国の大会を選んだ35歳のベルッチは、「ATP500 リオデジャネイロ」にワイルドカード(主催者推薦枠)として出場し、1回戦で第6シードのセバスチャン・バエス(アルゼンチン)に3-6、2-6で敗れて現役生活を終えた。
ベルッチがプロに転向した2005年は、彼にとって憧れのヒーローで、3度の「全仏オープン」優勝を含む20個のツアータイトルを誇る元世界王者のグスタボ・クエルテン(ブラジル)が現役選手としてまだプレーしている頃だった。ブラジルのテニスファンはベルッチがクエルテンのような高みに到達することを期待していたが、ベルッチはデビュー早々、16歳の時に手術を必要とする怪我を左膝に負い、ツアーから一年近く離脱することに。ベルッチは「完全に自信を失ってしまった。テニスを続けることが最善の選択かどうかもわからなかった。ほかのことをして楽しく過ごしたいとも思った」と当時を振り返り、引退も考えたという。
それでもベルッチは9歳の時に見たクエルテンの最初の「全仏オープン」優勝を忘れられず、夢を追い続けたそうだ。「彼はたくさんのブラジル人に、どんな困難があっても夢を見ることができると信じさせてくれた」とベルッチは話す。諦めずにテニスを続けた彼は19歳だった2007年にトップ200入りを果たし、2010年にキャリアハイとなる世界21位に到達。これはブラジル人男子選手としてはクエルテンに次いで歴代2番目に高い順位だった。ベルッチはツアーレベルで通算200勝を挙げ、4つのタイトルを獲得し、当時世界4位のアンディ・マレー(イギリス)や世界5位だった錦織圭(日本/ユニクロ)を含むトップ10プレーヤーから6回勝利をあげている。そうした功績の中でも特筆すべきは、ベルッチがクレーコートで世界王者ノバク・ジョコビッチ(セルビア)相手にベーグル(6-0)を達成した5人のうちの1人だということだろう。
だが、同世代で活躍するブラジル人男子選手がいない中で、ベルッチは大きなプレッシャーを感じていた時期もあったと明かしている。
「周りからの期待が大きいと、それをひしひしと感じる。何人ものスター選手がいる国ではそのプレッシャーが分散されて、一人当たりのプレッシャーは減ると思うんだ。例えば、アルゼンチン、スペイン、アメリカなんかがそうで、いずれの国にも選手がたくさんいる。でも、ブラジルでは僕だけがグランドスラムに出場していて、それは僕にとって良くないことだった。おかげで大会でよりいいところまで勝ち進まなければと自分自身にプレッシャーをかけるようになってしまったんだ」
ベルッチの最後の試合が終わると、コートに設置された大型スクリーンにクエルテンの姿が映し出され、彼は動画を通して孤独な戦いを強いられてきたベルッチに労いの言葉を贈った。「君はブラジル人男子選手の中で歴代2位の座を手に入れた。これは本気で言っている。私はこれからも君を応援し続けるよ。君に拍手を送り、感謝の気持ちを伝えたい」
左膝に再び怪我を抱え、肉体的な限界を感じたというベルッチは、引退のタイミングに悔いはないと清々しい表情で述べた。これからはコーチに転身することを検討しているという。「僕の経験を次の世代に引き継ぎ、ブラジルで選手を育てたいと思っている。子どもたちに教えられることはたくさんあるよ。人生の転換期を迎え、変化を受け入れるにはこれ以上ないタイミングだと思っている」
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は「ATP500 リオデジャネイロ」でのベルッチ
(Photo by Buda Mendes/Getty Images)