• 【実際の写真】ペグラと母のキムさん

• 【実際の写真】全豪オープンでダマール・ハムリンにエールを贈るペグラ

ペグラの母は、アメリカのプロフットボールリーグNFLのバッファロー・ビルズとプロアイスホッケーリーグNHLのバッファロー・セイバーズの共同所有者兼社長を務めている。ペグラが「全仏オープン」を終え、トップ10入りを果たした直後の昨年夏、キムさんは心停止を起こした。この時、ペグラの妹のケリーさんが救急隊員を待つ間に心肺蘇生を施し、この行動が母の命を救ったとペグラは述べている。

昨年6月、ペグラの母が入院したことがニュースになったが、それ以外の詳細はほとんど伏せられていた。今回ペグラが家族の話を公にするきっかけとなったのは、1月にバッファロー・ビルズの選手ダマール・ハムリンがフィールド上で心停止を起こした出来事だった。

「夫のテイラーにメッセージを送った、母の状況が私の心に重くのしかかっているって。いつこのことを話すことができるの？母のこと、私のこと、家族のことを話せるのはいつ？みんな私に聞いてくる。私は、打ち明けて心の重荷を軽くする必要があった」

「2023年の“全豪オープン”に出場する時、ダマール・ハムリンに敬意を表して（彼の背番号）3のパッチをつけることにした。皮肉なことにその時、私は世界3位だった。でも、これは彼だけのためという感じはしなかった。母のためでもあると感じていた」

母が入院している間、ペグラは家族と共に2週間つきっきりで看病した。キムさんはペグラの「ウィンブルドン」出場前にようやく少し回復の兆しを見せた。その後の2022年シーズンで、ペグラは自己最高の世界3位に到達し、「全米オープン」ではベスト8に進出。そして「WTA1000 グアダラハラ」で自身最大のタイトルを手にした。

「母の状態が快方に向かっていることがわかったら、“ウィンブルドン”に出場したいと思っていた。父は反対したけれど、自分のせいで欠場したと母が知れば怒るのは分かっていた。だから、スケジュールが合えば出場するつもりだった」

「“ウィンブルドン”に出場して最初の2試合に勝った。鼻炎で調子は良くなかった。多分、母に起こったことと、2週間病院を行き来したストレスからきたものでしょう。母の状態について、多くの憶測や質問に対応しなければならなかった。亡くなったという噂まで打ち消さなきゃならなかった。とても楽しい“ウィンブルドン”の思い出とはならなかった。数試合は勝てたし、状況を考えると出場して試合できた自分を誇らしく思う」

現在キムさんは後遺症として重い失語症と記憶障害を患っている。ペグラによるとキムさんは日々回復しているが、家族全員にとって大変な経験だった。

「突然、“トップ10入りをお祝いしましょう”から“テニス後のキャリアについて思っていたよりずっと早く考えなきゃいけないのかしら？”へ変わってしまった。“父や家族は助けを必要としているかしら？”、“学校へ戻って家族のために働くべきかしら？”と。私は28歳だし、様々な状況に対処できることを誇りとしているけれど、これは本当に大変だった」

「WTA1000 グアダラハラ」の決勝でマリア・サカーリ（ギリシャ）を破って優勝を飾った後、様々な感情がピークに達した。

「堪えきれずにロッカールームで泣いた。私は泣くタイプではないけれど、泣いてしまった。悲しい涙ではなくほとんど嬉しい涙だった、優勝できると確信していたから。表彰式のスピーチで勝利を母に捧げた。最悪の6ヶ月を過ぎてもなお、私は彼女のために毎日戦っているって知って欲しかった。母が今の状況を切り抜けるために戦えるのなら、私も戦えるはず」

「辛い1年だったけれど、同時に自分が幸運で恵まれていると感じた。母が生きていてくれてありがたいと思う、これほど幸運でなかったご家族もいるでしょうから。病院での最初の1週間は回復の希望がほとんどないように思えた。母の回復を助けてくれた医師たちに感謝している。母が家に帰ってきて、ビルズやセイバーズや私のテニスの試合を観られることに感謝している。以前は私の試合は絶対見なかった、緊張し過ぎるからって。今は全て観ている」

そして、ペグラはエッセイの最後をこう締め括った。

「プライバシーを尊重し、今後も続く道のりの至る所で私や家族にとてつもない支援をくださった皆さんに感謝します」

（WOWOWテニスワールド編集部）

※写真は2022年「全米オープン」でのペグラ
（Photo by Sarah Stier/Getty Images）