昨年91歳で亡くなったテニス界の名コーチ、錦織圭(日本/ユニクロ)の恩師でもあるニック・ボロテリー氏は、テニスに関する助言やこつ、教訓などを書き残していた。粘り強さの持つ力についてボロテリー氏が書き残した考えを、米テニスメディアBaselineが紹介している。
私たちは子どもたちに、道路を渡る時には両側を見るように教える。一方向を見た時には安全に思える旅路であっても、もう一方を見なければ惨事につながりかねないことを私たちは知っているのだ。
大人の場合、運転中に停止サインで止まった時に同じルールが適用される。発進する前に両側を見るのだ。しかし、ビジネスや人生の他の面では、前に進む前に見るべき方向が2つ以上あることが多い。人生には罠や落とし穴、回り道がいっぱいだ。こうした障害はたいてい困難なものだが、それがあるからこそ、成功した時の満足感が一層増す。というのも、成功とは常に忍耐力と共にあるものだからだ。何であっても、最初の試行で成功することは珍しい。テニスを始めたばかりの選手が、初めて出場した大会で優勝することを想像してみよう。そんなことは滅多に起こらない。
作家のハーバート・カウフマンはこう記している。「失敗とは、勇気が野心を“コーチする”間だけ先延ばしにされた成功のことだ。粘り強さの習慣とは成功の習慣である」
自分が進むと決めたどんな道についても、修正する心づもりをしておかなければならない。史上最高のバスケットボール選手と言ってほぼ間違いないマイケル・ジョーダンがいい例だ。彼はこう言った。「初めて練習が楽しみになった時、自分がどれだけバスケットボールを愛しているのかに気付いた。つまり、僕は試合と同じくらい練習も楽しんでいた」。ジョーダンはこうも言った。「僕は現役中に9,000回以上ショットを外した。300近い試合で負けた。26度にわたって、勝利を決めるショットを託されて外した。僕は人生で何度も何度も繰り返し失敗してきた。それが、僕が成功する理由だ」
マイケル・ジョーダンは、常に失敗が成功に先行することを示す一つの例に過ぎない。私の本「ボロテリー、大変革をもたらす」に書いたように、アンドレ・アガシ(アメリカ)は試合で負けた後、自分自身とチャンピオンとしての自分の未来を疑うようになった。彼は粘って、次の大会で優勝した。選手生活のもっと後では、「ウィンブルドン」や他のグランドスラムで優勝した後に、彼のランキングは世界150位近くにまで沈んだ。しかし、アンドレはあきらめず、不死鳥のように復活してもう一度世界最高の選手の一人となったのだ!なんという粘り強さ!
最後に、歴史上最も多くの作品を残した一人の発明家について紹介したい。キャリアを通して、トーマス・エジソンは10,000件の特許を却下されたと言われている。彼はくじけることなく、初めて人間の声を記録した機械である蓄音機を発明した。彼は電球とニューヨーク市南部の発電所を発明し、自分が作った電球全てに電力を送った。彼は初の映画を作り出し、自動車とそれを生産するための初の組み立てラインも生み出した。全て合わせると、彼は1,000件以上の特許を認められた。しかし、彼の伝記を読めば、伝えられているよりはるかに多くの発明をしていたこと、そして成功よりもずっと多くの失敗をしていたことがわかるだろう。
最後に私に目を向けてみよう。私は9度の結婚をした。私に耐えられる女性を見つけるのは不可能に思えた。でも、私は決して諦めなかった。粘ったのだ!私は9度目に幸運をつかんだ。明らかに、成功に至る道は一つではない。両側を見るのだ!最初に見た方向が望みの結果につながることはあまりないだろうから、全ての方向を見よう。
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は2019年「全豪オープン」でのもの
(Photo by Andy Cheung/Getty Images)