新たなドキュメンタリー番組の中で、ロジャー・フェデラー(スイス)が膝の手術の後の休養期間に参加した秘密のプロジェクトのことが明かされた。フェデラーの彫像が、それがフェデラーだと気付かれることなく5ヶ月間展示されていたのだ。現在41歳のフェデラーは、スイス生まれの著名な芸術家ウーゴ・ロンディノーネ氏が2022年にベニス・ビエンナーレで行った「burn shine fly(燃え、輝き、飛ぶ)」というインスタレーションの一部を成す独特な「飛んでいる」彫像のために下着姿になったといい、作品に関わった時の「か弱くなった」感覚を語った。英Express紙などが報じている。
「王者の肖像」というこのドキュメンタリー番組では、長引く膝の怪我からの復帰を目指していたフェデラーが、教会で行われたロンディノーネ氏の展示の中で空飛ぶ人物「雲6」となる過程が描かれている。フェデラーは下着姿になり、ロンディノーネ氏がポーズと彫刻の寸法を決められるよう、宙吊りにされているのだ。「よし、ここでちょっと止まろうとウーゴが言った。何をしようとしているのか、ロジャーにちゃんと説明しようって」とフェデラーは制作過程で体験したことを語っている。
彫像の等身大模型を作るためにカメラが体の周りを飛び回るなか、フェデラーは水泳帽のような帽子を被って空中に手を伸ばしている。これに続いて、フェデラーは体の様々な部位の型を取られている。後にフェデラーは「もちろんか弱くなった気分だよ」と話している。
「テニスコートにいる時にはそういう感覚に慣れているけれど、そうは言ってもコートではラケットを持っている。ラケットは僕にとって雷神トールのハンマーみたいなものだ。それに、誰かに撮影されている時も全然問題はない。でも、下着姿でハーネスを付けて宙吊りにされているというのは、明らかに全く状況が違う。僕としては妙なことだと思ったけれど、たとえそれが馬鹿げているとしても、それも創作過程の一部だし、最終的にいい結果を出すために必要なことなんだ、と思ったよ」
番組ではさらに、フェデラーの彫像を作るように頼まれた時に最初は断ったことを、ロンディノーネ氏が明かしている。「驚いたよ。僕は委託を受けないからね。委託を受けたら僕は空っぽになって、本当の意味で自分のものではない何かを遂行しなければいけない気分になる」とロンディノーネ氏は言いつつも、フェデラーの彫像を自分の既存の作品の一部に取り入れることで「見事な解決」が図られたと説明した。
「名前のない人物として彼をこのプロジェクトに取り込んだらどうかと言ったんだ。ロジャー・フェデラーとしてではなく。彼を宣伝はしない。彼には、飛んでいる無名の7つの体の1つになって欲しい」とロンディノーネ氏は付け加えた。フェデラーは後にベニス・ビエンナーレに展示を見に行き、匿名性がテニスコートから離れた時の自分の人生と重なったと認めている。
「匿名にしたことで良かったと思っているのは、僕の人生でも同じ面があるということだ。僕がどこにいるのか、何をしているのかを周りが知らず、匿名でいられることが嬉しい時はある」とフェデラーは説明したが、人前に出てテニスをするのも楽しいと認めた。撮影の時点では、もうしないことになるとは思っていなかったことだ。
「でも、スポットライトの下に戻るのもいいものだ。センターコートに出て行くのはいいものだし、有名だったりよく知られていたり、そのことについてマイクを向けられるのも、時としていいものだ」
プロジェクトを振り返って、フェデラーはこう付け加えた。「ウーゴと製作過程を共にして、最終的にプロジェクトに彼の思いが反映されて、彼のために僕の体が飛んでいるのを見て、とても安心したよ」
番組では、2022年4月から9月までの展示期間を通して、6番の雲がロジャー・フェデラーの彫像だと気付いた人は一人もいなかったと明かされている。
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は「モエ・エ・シャンドン」のイベントでのフェデラー
(Photo by Remy Steiner/Getty Images for Moet & Chandon)