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錦織の恩師が解説:選手を育てるためのチームワークの大切さ

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昨年91歳で亡くなったテニス界の名コーチ、錦織圭(日本/ユニクロ)の恩師でもあるニック・ボロテリー氏は、テニスに関する助言やこつ、教訓などを書き残していた。コーチと教え子のチームワークについてボロテリー氏が書き残した内容を、米テニスメディアBaselineが紹介している。

人生を通して、私はたくさんの懐疑論者や疑い深い人に対峙してきた。キャリア初期には、私は自分を信じることを選び、信じない人たちには耳を貸さなかった。実際、批判こそが、周りには不可能と思われていたことをするよう私を駆り立てた。だが、自分の周りに能力のあるチームがいなければ、私の目標やビジョンが成功する見込みはほとんどないことも知っていた。私のチームのメンバーには一人ひとりにそれぞれの責任があり、それがグループ全体の貢献と混ざり合った時に、成功を生んだのだ。

私はチームワークがしばしば成功への鍵となることを理解するようになった。最終結果は一人の個人の力と見なされるとしても。チームワークの一番いい定義は、合衆国海軍のブルー・エンジェルズから聞いたものだ。彼らはこう信じている。「チームワークには訓練と練習と信頼が必要だ。つまり、一人ひとりのメンバーが、互いが結果を出すことをあてにしている」。このパイロットたちは戦闘機を時速500マイル(約800㎞)で飛ばし、互いに3フィート(約90㎝)以下の距離まで近づくのだということに気づけば、互いへの信頼と確信がグループの成功にとってこれほどまでに重要な要素である理由は明らかだ。そして、「チームワーク」は時折行えばよいというものではない。メンバーは一人ひとりが常にチームを代表している。つまり、いつ何時も、常に100%の努力と集中を求められる。戦闘機のパイロットが、チームの誰かが前の晩によく眠れなかったとか、あるいは夕食の時にワインを飲み過ぎたと考えていると想像してみよう。この疑いは大惨事の原因になるかもしれない!これは生死にかかわる問題だ!疑いも不安も許されない!

ボリス・ベッカー(ドイツ)がノバク・ジョコビッチ(セルビア)のコーチを引き受けるよう頼まれた時のことを覚えている。評論家たちは、なぜすでにテニス界の頂点に到達したノバクに新しいコーチが必要なのかと疑問を呈した。世界ランキング1位の選手の武器庫に、ボリスは一体何を加えることができるだろう?だが、「選手はいいコーチにならない」という古い格言が間違いであることは、何度も繰り返し証明されてきた。ジミー・コナーズ(アメリカ)、ステファン・エドバーグ(スウェーデン)、アメリー・モレスモー(フランス)、マルチナ・ナブラチロワ(チェコ)といった面々は、トップレベルの選手のコーチを務めた元トップ選手たちのほんの一部だ。

最終的に、ボリスはこの元王者たちの一流の輪に加わることを決めた。ボリスはノバクの「チーム」の一部となるという明確な理解をした上でその仕事を引き受けたのだ。チームの一員として参加する意思を示すために、彼はマリアン・バイダ氏の助言を尊重した。マリアンは何年もノバクのコーチを務めていたが、家族ともっと時間を過ごすために、筆頭コーチの職務から退くことを決めた。マリアンはノバクのテニスを誰よりもよく知っており、貴重な助言と提案をくれた。ボリスは、グランドスラムの間だけでもチームに残って賢明な助言を与えるよう、マリアンを説き伏せた。

世界レベルのテニス選手の誰もが素晴らしいコーチになれるわけではないが、彼らは平均的な人物が決して想像しえない経験を有している。選手への高まる期待を胸にした20,000人の観衆が声援を上げる満杯のスタジアムに入場するのは、気の弱い人には向かない。何度もこの経験をしたことがあるボリスは、ノバクが不安を制御して、こうしたストレスのかかる状況で最高のテニスを見せられるように助力する上で必要なものを十分備えている。対戦相手の強みと弱みを理解し、そうした弱みにつけこむこともまた、勝つために必須の資質だ。バックハンドがお粗末だとか、そういう目立ったもののことではない。このレベルでバックハンドがお粗末な選手などいない。そうではなく、微妙なものだ。エラーを生む、対戦相手の予測可能なちょっとした行動だ。こういうことにボリスは気付き、ノバクに指摘する。クラブ選手のほとんどは決して気付かないことだ。

世界レベルでコーチを務めることは、そのレベルでプレーすることを思い出させる気分の高揚をもたらすものだとボリスは気付いたようだ。とても現実的な意味で、彼はテニスについての尋常でなく豊富な知識と理解を持って、コーチとして生まれ変わったのだ。コート、更衣室、そしてうなるような観衆の声。全てに不気味なほどに親しみがある。彼は以前ここにいた。最初は10代の頃だった。不安で、緊張して、疑問だらけだった。今、彼は成熟した大人で、自信があって、自分自身に確信があって、自分が指導する若い王者をこの山の頂上にとどまらせることができると固く信じている。私はボリスと共に過ごして彼を知っている。私は彼と組み、彼のコーチを務めた。彼の経験と、思慮深さと意志の強さを思えば、彼はテニス界の素晴らしいコーチの一人になるだろう。

追伸:ボリスは私のキャリアで最高の一つに入る褒め言葉をくれた。私にはちょっとしたことが見えると彼は認めたのだ。私は細かな調整について提案をして、そのまま立ち去った。あとのことは、彼の内なる王者が対応した。幸運を祈る、ボリス。君は王者だ。コート上でも、選手関係者席でも!

(WOWOWテニスワールド編集部)

※写真はイメージ
(Photo by Digital Vision.)

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