昨年91歳で亡くなったテニス界の名コーチ、錦織圭(日本/ユニクロ)の恩師でもあるニック・ボロテリー氏は、テニスに関する助言やこつ、教訓などを書き残していた。ボロテリー氏のボレーへの愛と、それをどのようにして恐ろしいショットにするかについて記された内容を、米テニスメディアBaselineが紹介している。
長年にわたって、ネット際での直感を教えることにはとても苦労してきた。しかし、誰もがそれを改善することができる。これはトミー・ハース(ドイツ)が15歳の時、いつネット際に出て来るべきかと私に聞いてきた時、彼に伝えた内容だ。「常に出るようにしなさい。何度もそうすることで、いつどのようにネット際に出ていくべきなのかを、感覚的につかめるようになる」
感覚が、良いボレーヤーになるための唯一の鍵だろうか?確かに、ボールへの感覚が優れていると、特にタッチボレーやドロップボレーにはとても役立つだろう。だが、バランスの良い基礎があれば、卓越したボレーヤーになることができる。体を伸ばすのではなく、足を使ってボールの方に動こう。ボレーを打つ時は、短く安定した動作で前に出よう。相手の力を利用して、コートの戦略的な位置にボレーの方向を向けるだけでいい。その戦略的な位置は、自分がボレーを打つ位置と、相手の位置と動きによって決まる。多くの場合、どこに向けてボレーを打つかにだけ集中すればよい。相手の位置は気にしなくていい。集中を乱すものにしかならないからだ。ワイドボレーのために素早く突進しなければいけない時には、下半身と上半身の強さが大きな強みになる。
低いボレーを打つ時は、背中ではなく膝を曲げて、ボールと水平になるようにバランスの取れた姿勢で身を低くしよう。25年間僕の指導を受けた元ダブルス世界ランキング1位でシングルスでも世界20位に入った(現在は錦織のコーチを務める)マックス・ミルニー(ベラルーシ)は、膝を曲げることでボールと水平になる位置まで身を低くすると言った。特に低いボレーでは、これが力とコントロールをもたらす位置だ。体が直立しすぎていて、ボールに向けてラケットヘッドを下向きにしなければいけなくなると、コントロールを失って手首の動きを加えざるを得なくなり、正確さが失われる結果となる。
腰から身をかがめてはいけない、と肝に銘じよう。脚を使ってボールの位置まで身を低くするのだ。こうするためには、ジムで下半身を鍛える必要があるかもしれない。
ボレーを打って、前に出続けよう。相手がやぶれかぶれで自分を抜きに来ざるを得ないようにするのだ。ポイントを取る確率は、最初のボレーの後に前に出ることで大きく上がる。スイングボレーでもサーブ・アンド・ボレーでも同じだ。対戦相手がこちらを抜くためには、より狭い隙間を狙って最高のショットを打たなければいけなくなるからだ。
高いボレーでは攻撃しよう。80年代に私は、高いボレーではラケットを振るようにアンドレ・アガシ(アメリカ)やジム・クーリエ(アメリカ)、モニカ・セレス(アメリカ)たちに言った。今ではこれは主要な武器であり、プロツアーにおける主力となっている。マリア・シャラポワ(ロシア)やセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)、ロジャー・フェデラー(スイス)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)を含む大勢の選手たちが常用している。スイングボレーの打ち方はこうだ。
1.セミウエスタンの位置でラケットを薄く、場合によっては厚く握るようにグリップを調整する。手はラケットのハンドルの後ろ側に来る。
2.早めに準備に入る。
3.打つ方と反対の手と腕を、肩ぐらいの高さでボールに向かって伸ばす。
4.肩を水平に保ち、頭は動かさない。
5.反対側の手に向かって、ボールに対して水平にラケットを完全に振り抜く。
6.そのショットがウィナーにならなかったら、ネットに近づいて、戻って来る守備的な球を処理する。
スイングボレーとオーバーヘッドのどちらを打つのが良いだろうか?風の強い日や、太陽の方向を向いている時、重たいトップスピンのロブを返球する場合、もしくは肩に問題を抱えている場合は、通常はオーバーヘッドよりもスイングボレーを選ぶ方が良い。
幸運を祈る。
ニック
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は「ATP1000 トロント」での錦織
(Photo by Vaughn Ridley/Getty Images)