「勇気」という言葉はテニス界で多く用いられるが、通常は金星を挙げた時やプレッシャーのかかる場面での並外れた努力に対して使われる。だが真の勇気とは、こうしたものとはまるで違うものだ。勇気を体現するダリア・カサキナ(ロシア)のインタビュー内容を、英Guardian紙が報じている。
カサキナはコート上で素晴らしい2022年シーズンを送った。初めて世界ランキング10位内に入ってから4年を経て、再びトップ10に返り咲いたのだ。カサキナは滑らかなラケットさばきと技巧で対戦相手を欺き、意のままに走り回らせることができる。しかし、カサキナが去年それ以上に強い印象を残したのはコート外でのことであった。
7月にYouTubeで公開されたインタビューの中で、カサキナは母国ロシアによるウクライナ侵攻とそれに続く戦争を批判すると同時に、同性愛者であることを公表した。これもまた勇敢な行動である。自身の言葉の危険性と母国で生じうる影響を承知の上で、カサキナはひるむことなく、戦争は悪夢であると言い、同性愛に関するロシアの態度を批判したのだ。
大きな危険を伴うことであったが、カサキナはその危険を冒す価値があると感じた。「全豪オープン」会場で行われたインタビューで、カサキナは家族に会えなくなったとしても発言を続ける、その理由を説明した。
「もちろん心配よ。ウクライナには友人や知人がたくさんいて、その人たちから話を聞いているけれど、苦痛だわ。自分がその人たちの立場にいたらと想像するから。すごく辛い。そして、そういう状況での暮らしがもう1年近く続いている。できるだけ早く終わって欲しいけれど、残念ながら私たちがどうこうできるものではないわ。友達に愛と支援を示したい。すごく辛いから。彼らはもっと厳しい立場にある」
カサキナは1ヶ月前、シーズン前の練習中に母に会うことができたが、父とは2年間会っていない。今のところ、自宅に帰る危険を冒すことはできない。「状況がどう転ぶかは全くわからない。でも、あまり先のことまで考えなくていいと気づいたの。次の角を曲がったら何があるかわからないから。明日がどうなるかはわからない」
「たいていの人にとって、家族や友人に支えてもらうことは大事だわ。私の友達や家族は、最初は新型コロナウイルス感染症のせいで、その次は戦争のせいで移動できないから、辛い。愛する人たちと頻繁に会えないというのは厳しいものよ。実際、全くと言っていいほど会えないの。父には2年会っていない。でもそれが現実。残念ながら人生とはそういうものよ。今より悪い状況でないことに感謝しないといけない。彼らが健康でどこかにいてくれるだけで幸せよ」
プロフィギュアスケート選手のナタリア・ザビアコと交際していると公表したことも、同性愛嫌いがまかり通っていて自由が制限されているロシアでは歓迎されないと、カサキナはわかっていた。カサキナにとって意外だったのは、選手仲間の反応がこれほどまでに肯定的だったことだ。
「特に知っている人たちからは、全く否定的なことを言われなかったから、すごいわね。すごく気を遣う話題だから、否定的な反応にも備えていた。でもそんなことは何もなかった。おかげですごく気分がいいから、とても感謝しているわ。私のところに来てくれた選手もいるし、今でも来てくれることもあって、私に“やあ、いいね”とか“おめでとう”と言ってくれるの。素敵よね」
ロシアについて意見を述べ、同性愛を公言したことで、コート上でのカサキナに悪い影響が及ぶ危険はあったに違いない。しかし実際には、その反対の効果があったという。「正直に言うと、それは助けになった。感じるプレッシャーが軽くなった。この重圧を肩から降ろせたの。テニスについて考えながら、頭の中で他の深いことについても考えないといけない状態って、単純に良くないでしょう」
「このことを全部言った後、ずいぶん気分が良くなったのを覚えているわ。あれは去年した最高の決断の一つだったし、結果に満足している。それと、隣にいて支えてくれた人たちに感謝しているわ」
カサキナは現在世界ランキング8位だが、もし昨年「ウィンブルドン」に出場が許されていれば、もっと上位で2022年を終えていたかもしれない。だがカサキナを含むロシア人選手とベラルーシ人選手は、ウクライナ侵攻を理由に大会主催者であるオール・イングランド・クラブから出場を禁止された。この決定はイギリスでは広く支持されたものの、このことへの制裁としてATP(男子プロテニス協会)とWTA(女子テニス協会)が大会からランキングポイントを剥奪すると、全ての国の選手たちが大損する結果となった。
「ウィンブルドン」は2023年大会では出場禁止措置の撤回を検討していると報じられている。そうなればカサキナも歓迎するだろう。「そうなれば最高ね。去年出場できなかったのは辛かった。最大の大会の一つを逃したんですもの。誰にとってもいいことではなかった。他の場所でプレーしてポイントを得ることもなかったから、あの状況は誰にとっても良くなかった。だからもし今年は状況が変わって出場できるなら、それは素晴らしいわ」
カサキナは今シーズン、「WTA500 アデレード」で決勝に進出したものの、「全豪オープン」では1回戦で同胞のバルバラ・グラチェワ(ロシア)に敗れた。しかし、彼女自身が証明してきたとおり、テニスの成績より重要なこともある。
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は「WTA500 アデレード2」でのカサキナ
(Photo by Mark Brake/Getty Images)
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