「全豪オープン」初日に第25シードのマリー・ブーズコバ(チェコ)からストレート勝利を挙げたビアンカ・アンドレスク(カナダ)は、比較的短いキャリアの中で実に幅広い感情を経験してきた。2019年には、舞い上がるような高揚があった。当時10代だったアンドレスクは「WTA1000 インディアンウェルズ」と「WTA1000 トロント」でタイトルを獲得し、「全米オープン」でセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)から金星を挙げて優勝を果たしたのだ。そして、2020年と2021年には気落ちさせるような停滞があった。アンドレスクは怪我に悩まされ、新型コロナウイルス感染症の大流行の影響を受けた2シーズンの間ずっと苦戦した後、メンタルヘルスのための休息を発表した。
22歳になったアンドレスクは、今はこの両極の間のどこかにいる。アンドレスクが最近語った内容を、「全豪オープン」公式ウェブサイトが報じている。
ツアーから6ヶ月間離脱したのち、アンドレスクは100位以下から現在の45位まで世界ランキングを戻してきた。とはいえまだキャリア最高位である4位にはほど遠い。それでも、アンドレスクは新しい視点で試合に臨んでいる。これは、プロ選手としての激動の旅路を通して彼女が学んだ教訓のおかげだ。
「私にとっては、そのことがこの1年で一番大きい。つまり、自分自身を精一杯愛そうとすること。本当に、今ここにたどり着く上でそれが役立った。ただコート外で自分自身への愛を持っているということが。以前はもっと結果志向で、負けると世界の終わりみたいだった。でも今は、自分自身とすごく調和しているわ」
アンドレスクは常に、その若さに似合わないほどの自己認識を持っていた。以前彼女は、このような成熟は世界を旅することで培われたのだろうと語っていた。アンドレスクは多くの場合一人で、プロテニス選手としてのキャリアを築くために12歳の時から旅をしているのだ。
別の理由は、一番刺激をくれる人物だとする母のマリアさんが、アンドレスクが14歳の時に瞑想と精神性を紹介したことかもしれない。アンドレスクはそれ以来この両方を実践しており、これらはテニス以外で彼女が一番情熱を傾けるものの一つとなっている。
「テニスは間違いなく私の情熱。でもテニス以外だと、個人の成長と、瞑想、マインドフルネス、精神性みたいなものね。本をたくさん読むし、ポッドキャストもたくさん聞くし、内面的な作業をすごくする。それが真の幸福や喜び、人生への満足を本当の意味で見出すための鍵だと、心から信じている。心がどんなふうに働くのかにもすごく興味があるから、その背後にある心理学みたいなものも深く掘り下げるし、それはコート上でも本当に役に立つの」
2022年には、3年前に圧倒的な力を誇った選手の片鱗が見えた。2021年終盤にメンタルヘルスのための休息を取ることを発表した後、アンドレスクは翌2022年4月まで試合に戻らなかった。
復帰すると、アンドレスクは堅調なクレーコートシーズンを楽しんだ。「WTA1000 ローマ」ではエマ・ラドゥカヌ(イギリス)らを破って準々決勝に進出。芝コートでの「WTA250 バッドホンブルク」では決勝まで勝ち上がった。北米のハードコート大会でも強さを見せ、「WTA1000 トロント」と「全米オープン」、「WTA1000 グアダラハラ」で3回戦まで勝ち進んだ。その中で、ダリア・カサキナ(ロシア)、アリゼ・コルネ(フランス)、ベアトリス・アダッド マイア(ブラジル)、リュドミラ・サムソノワ(ロシア)、ペトラ・クビトバ(チェコ)らから勝利を積み上げた。
しかし、3シーズン前にしばしば見られたような、目を見張らせるようなパフォーマンスを見せるには至らなかった。アンドレスクは2019年にはトップ10選手との試合で8連勝を挙げたが、2022年のトップ10選手との対戦成績は2勝5敗であった。
アンドレスクは最近、クリストファー・ランバート氏を新しいコーチに迎えたことを発表。彼との協働と自身が続けている内面的な作業が、2023年により良い大きな成果をもたらすことを望んでいる。というのも、今のアンドレスクは健康で闘志に燃えており、自身のキャリアビジョンを実現するのに適した状態にあるからだ。
「私の目的は、テニスをプラットフォームとして活用して、他の人に刺激を与える手助けをすること。そして、基本的にそれは私のテニスの成績とテニスの基盤を利用して、できれば現役の間に、自分のチャリティー財団をつくるか、簡単に言えばテニス以上の何かをすることができたらいいわね」とアンドレスクは明かし、次のように続けた。
「私は、誰が見ても努力家で、他の人に対してすごく楽しくて心温まる人として知ってもらいたい。精神的に損なわれることなく、自分自身を知り、自分の望みを知っている人。そして、素晴らしいテニス選手でありながら、ただの人間でもある人」
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は「全豪オープン」でのアンドレスク
(Photo by Robert Prange/Getty Images)