およそ一年前にオーストラリアから強制送還された元世界王者のノバク・ジョコビッチ(セルビア)が、2022年末に問題なく同国に入国し、第1シードとして「ATP250 アデレード1」(オーストラリア・アデレード/1月1日~1月8日/ハードコート)に出場している。現地でのジョコビッチの様子を英BBCなど複数のメディアが報じた。
ジョコビッチは昨年1月に新型コロナワクチンを受けていないことで入国ビザを取り消され、オーストラリアから強制送還された。これにより以後3年間は同国への入国が禁止されることになっていたが、11月半ばに入国禁止処分を取り下げられ、ジョコビッチは先月27日に無事オーストラリアに入国。10回目の優勝を狙う「全豪オープン」(オーストラリア・メルボルン/1月16日~1月29日/ハードコート)の前哨戦として「ATP250 アデレード1」で2023年シーズンのスタートを切った。
ジョコビッチにとって2年ぶりとなるオーストラリアでの試合は、元ダブルス世界ランキング4位のバセック・ポスピショル(カナダ)とペアを組んで出場したダブルスだったが、ダブルス世界58位のトミスラブ・ブルキッチ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)と同40位のゴンサロ・エスコバル(エクアドル)のペアに6-4、3-6、[5-10]で敗れて初戦敗退を喫している。
いまだにワクチンを摂取していないジョコビッチの入国は、長きにわたって新型コロナの厳しい規制を強いられてきたオーストラリア国民の反感を買うのではと懸念する向きもあったが、ダブルスの試合でジョコビッチが入場すると観客からはノバクコールが起き、終始熱い声援を送られるほど会場は歓迎ムードに包まれていた。ジョコビッチは敗戦後もコートに残ってファンとの写真やサインに応じている。
その翌日に行われたシングルスの試合でジョコビッチは世界ランキング65位のコンスタン・レスティエンヌ(フランス)に6-3、6-2で勝利したことで、2018年から数えてオーストラリアの地でシングルス30連勝を記録した。ジョコビッチは「初戦としては悪くなかった。最初の6ゲームは拮抗していたと思うし、彼はカウンターパンチャーで、あまりミスをしないタイプだ。トリッキーなサーブがあるし狙った球を決めることもできる。でも、第1セットのゲームカウント3-2で迎えた第6ゲームでブレークに成功してからは主導権を握れて、以後はすごくいいプレーができたと思っている」と試合を振り返り、オーストラリアに戻ってこられたことについてはこうコメントしている。
「自分が意識するものはそのまま実現してしまうものだ。ネガティブなことに目を向けると、それを引き寄せてしまうから、そうならないようにしたい。僕は何も根に持っていない。僕はテニスをし、スポーツを楽しみ、良いエネルギーを広めるためにここに来た。初戦で満員の観客席を目の当たりにすることができたのは嬉しい驚きだったし、たくさんのサポートと愛を感じた。それが僕のモチベーションとなり、コート上で最高の形で自分のプレーを表現することができた」
試合結果も観客の反応も順調な滑り出しを見せたジョコビッチだが、過去に元世界女王セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)のコーチを務めたパトリック・ムラトグルー氏は、ジョコビッチが今後の試合で感情的に耐えられなくなる可能性を警告。年間グランドスラム達成という偉業がかかった2021年の「全米オープン」決勝でダニール・メドベージェフ(ロシア)にストレート負けを喫した時のことを引き合いに出して、以下のように述べている。
「ジョコビッチがオーストラリアで厳しい戦いを強いられることは間違いない。彼は感情的に大きな重荷を背負っている。すでに感情を揺さぶられることをここでたくさん経験している。そういうことに対して免疫のある人はいない。2021年の“全米オープン”の時のように、彼がすべてを抱えきることができなくなって崩れてしまわないことを祈るよ。今の彼は事前にたっぷりと休んでいるだろうけどね」
ジョコビッチは2回戦で世界64位のカンタン・アリス(フランス)と対戦する。
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は「ATP250 アデレード1」でのシングルス勝利後に笑顔を見せるジョコビッチ
(Photo by Mark Brake/Getty Images)