今年の「全米オープン」で実施されたドービング検査で陽性となり、一時的に出場停止処分を科されている元世界女王のシモナ・ハレプ(ルーマニア)が、体内に禁止薬物が混入した経緯を突き止めたという。英Express紙など複数のメディアが報じている。
ハレプは8月29日から開催された「全米オープン」でドーピング検査を受けた際に、世界アンチドーピング機構(WADA)が禁止物質に指定しているロキサデュスタットという薬物に対して陽性反応を示したと、10月にインターナショナル・テニス・インテグリティ・エージェンシー(ITIA)が声明を出した。これに対してハレプは無実を主張し、「どんな禁止薬物も故意に摂取していないことを証明するために最後まで戦うつもり」だと述べていた。そしてこの度、無実を証明する大きな手がかりが見つかったことがわかった。
スポーツ仲裁裁判所のルーマニア人裁判官であるCristian Jura氏は、「汚染されたサプリメントを摂取したことでロキサデュスタットが彼女の体内に入ったことが特定された」と述べている。「汚染された製品とは、製品ラベルやインターネットでの合理的な検索によりアクセス可能な情報に明記されていない、禁止物質を含む製品のこと。現時点での彼女は、出場停止処分やあらゆる制裁を取り下げられる可能性と、通常通り4年間の出場停止処分を科される可能性の狭間にいる」
ルーマニアの日刊紙ProSportによれば、フランスアンチドーピング機構(AFLD)がハレプの摂取していたサプリメントを調べたところ、ロキサデュスタットが微量ながらも含まれていたことが判明したが、製品ラベルにはそのことが表記されていなかったとのことだ。こういった事態を懸念してWADAは慎重にサプリメントを摂取するようアスリートに呼びかけているが、AFLDはハレプのサプリメントに含まれていたロキサデュスタットの痕跡に関する情報は、WADAが提供するオンライン識別エンジンでは容易に見つけられなかったと報告しているという。
摂取した経緯が明らかになった今、ハレプに課された次の難題は、細心の注意を払っていたとしても禁止薬物を摂取する可能性を知る余地がなかったことを証明すること。とはいえ、この証明が最も難しいとされており、これまでにもサプリメントに禁止薬物が含まれていると知らぬままに摂取し、結局、出場停止処分を科されたアスリートはたくさんいるとされる。
Jura氏はさらにこう説明している。「手続きとしてはいくつかの段階があり、まずはITIAによる審問を受けなければならない。汚染されたサプリメントを摂取したという証拠を考慮し、彼女の暫定的な出場停止処分を解除することは可能ではあるが、最終的な判断は証拠の内容に大きく依存する」
テニス選手のドーピング疑惑をめぐっては、元世界ランキング7位のフェルナンド・ベルダスコ(スペイン)が出場停止処分を科されたばかりだ。彼の場合は注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療のために以前から禁止薬物のメチルフェニデートを処方されており、治療使用特例(TUE)の申請によって服用が認められていたところ、申請の更新を失念したために検査で陽性反応を示したことが規定違反となった。ITIAは「重大な過失はない」としてベルダスコの出場停止処分を2年から2ヶ月に短縮している。
ベルダスコの処分に関してはテニス界で大きな話題となっており、試合中の集中力を高めるために世界ランキングでトップ100に入っている選手の半数以上がADHDの治療薬を服用していると匿名の男子選手が漏らしたという話まで伝わっている。TUEの申請さえすればドーピング違反にならないため、元世界ランキング17位のライリー・オペルカ(アメリカ)や元世界33位のジョン・ミルマン(オーストラリア)はこれを「合法的なドーピング」として批判。TUEは治療薬として禁止薬物を必要としている選手の救済措置になっている一方で、ドーピングの抜け道を作っていると主張した。
「ドーピングをしたければTUEを申請すればいいというのは昔から言われている」と話すミルマンは、TUEの存在はハレプが無実であることを裏づけるという。「彼女が何かを摂取してパフォーマンスを上げたければ、TUEを申請すればいいだけのこと。(そうしなかった)彼女は無実だと思っている」
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は「WTA1000 マドリード」でのハレプ
(Photo by Robert Prange/Getty Images)