現在アメリカのテキサス州フォートワースで行われているWTA(女子テニス協会)のシーズン最終戦。今年51回目を数えるこの大会ではかつて、ボールパーソンたちが大きな注目を集めた。その当時のことを米テニスメディア Baselineが伝えている。
マドリードで行われた2006年大会では、同大会に出場していた当時19歳のマリア・シャラポワ(ロシア)がボールパーソン選出で一肌脱ぐことになった。そもそもの発端は、マドリードで開催されていたATP大会が2004年からボールパーソンとして女性モデルを起用していたこと。これが多くの批判を受けたことから、2年後にWTAのシーズン最終戦が同地で初めて開催された際、主催者たちは「平等」の名のもとに今度は男性モデルを同職に起用することにしたのだ。
プロテニスで初めてボールパーソンを務める男性モデルたちの選定を行ったのは、シャラポワ、元世界女王のアランチャ・サンチェス ビカリオ(スペイン)、そしてアルゼンチン人女優のナタリア・ベルベケ。その中心を担ったシャラポワは、部屋を埋め尽くす候補者たちを見ながら、「格好いい男性を見て、楽しい時間を過ごすために来たの」と冗談を言っていた。
しかし、シャラポワらによって組織された「無慈悲だけれどとても面白い」選考委員会は、候補者であるモデルたちに冷や汗をかかせることになった。というのも、シャラポワが選考にあたって重視したのはテニスについての知識、それも彼女自身のテニスキャリアに関する知識と関心の高さだったからである。
「一番好きな女子テニス選手は誰?」と聞かれたある候補者は考え込んだ末に「リンゼイ・ダベンポート(アメリカ)」と口走ってしまい、シャラポワから0点をつけられることに。同じように、一番好きな選手としてキム・クライシュテルス(ベルギー)の名前を挙げたり、2004年の「ウィンブルドン」チャンピオン(答えはシャラポワ)を知らなかった候補者も、高得点を得ることはできなかった。
そんな厳しい審査を経てボールパーソンたちが選ばれたものの、コートではある問題が起きたという。その前にマドリードで女性モデルが同職を担った際には、アンドレ・アガシ(アメリカ)が「集中しづらい」と冗談を言ったように、男子選手たちが見目麗しいボールパーソンたちについつい目を奪われてしまった。一方、女子の大会で起きたのは逆の事態だった。
2006年大会に出場した一人、エレナ・デメンティエワ(ロシア)が以下のように説明している。「この間、練習をしていたんだけど、彼らはコート上で何をしなければいけないのか、あまりわかっていないと思う。だって、彼らは選手たちを見るのに忙しいんだもの。うまくいくかどうかは見てみないとわからないけど、彼らが気を散らすことなく仕事をこなすのは難しいでしょうね」
そうした問題もあってか、シーズン最終戦で男性モデルがボールパーソンを担当したのは、2006年・2007年のマドリード大会のみ。とはいえ、彼らがテニスコートから完全に姿を消したわけではなく、HUGO BOSSやMANGO、PULL & BEARといったファッションブランドと連携する「ATP/WTA1000 マドリード」では、今でも一部のボールパーソンをモデルが務めているという。
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は2006年、シーズン最終戦のためのボールパーソン選出を行うシャラポワ(右端)たち
(Photo by Denis Doyle/Getty Images)