元世界女王のシモナ・ハレプ(ルーマニア)がドーピング検査で陽性となり、一時的に出場停止処分を下されたことが明らかになった。英スポーツメディア EUROSPORTなど複数のメディアが報じている。
今月21日にインターナショナル・テニス・インテグリティ・エージェンシー(ITIA)が出した声明によれば、ハレプは8月29日から開催された「全米オープン」でドーピング検査を受けた際に、世界アンチドーピング機構(WADA)が禁止物質に指定しているロキサデュスタットという薬物に対して陽性反応を示したという。これによりハレプは暫定的な出場停止処分を言い渡されており、最終的な審議を待つ間も大会への出場や出席は認められない。無実を主張しているハレプは今回のドーピング疑惑について、「真実のために戦うという、私の人生で最も厳しい試合が今日から始まります」と切り出し、Twitterでこう綴った。
「私は今までのキャリアで不正行為をしようなどとは一度も考えたことがありません。なぜなら、それは私が教えられてきた価値観に反することだからです。このような理不尽な状況に直面して私はとても混乱し、裏切られたと感じています。私はどんな禁止物質も故意に摂取していないことを証明するために最後まで戦うつもりですし、遅かれ早かれ真実が明らかになると信じています。これはタイトルやお金の問題ではありません。名誉の問題であり、過去25年間にわたって私がテニスというゲームと育んできた大切なストーリーのためなのです」
2018年の「全仏オープン」、2019年の「ウィンブルドン」も含めて通算24個のタイトルを誇る31歳のハレプが最後にプレーしたのは前述の「全米オープン」で、予選から勝ち上がった当時世界ランキング124位のダリア・スニーグル(ウクライナ)に敗れて初戦敗退を喫していた。その後、ハレプは何年も患っていた呼吸の問題を解決するために鼻の手術を受け、そのままシーズンを終了することを9月半ばにSNS上で報告。だが2週間ほど前、アラブ首長国連邦のドバイで12月19日から24日まで開催される新しいエキシビション大会に出場すると報じられていた。
現役トップクラスの選手のドーピング疑惑にテニス界は大きく揺れているが、関係者の多くはハレプを擁護する姿勢を示している。
元世界王者のノバク・ジョコビッチ(セルビア)らが設立したPTPA(Professional Tennis Players Association/プロテニス選手協会)は声明を出し、「PTPAはシモナ・ハレプがほかのすべてのテニスプレーヤーと同様に、全工程において公正な審理が受けられるようにすることを約束します。私たちは彼女の権利のために戦い、ほかのすべてのテニスプレーヤーのためにも、透明性が守られることを主張するよう努めます」とハレプへの支持を表明している。
結婚からわずか一年で実業家のトニー・ユーリック氏と離婚したことが報じられたばかりのハレプだが、元夫はすぐに彼女のために声をあげた。「誓って言うが、私の元妻は一つだけ執着していることがあり、それは名誉を守ることだ。シモナから名誉や公正を奪うということは、彼女を殺すようなものだ。知っての通り、私は離婚調停を終えたばかりで、“ノーコメント”を貫き通すことだってできた。だが、何年も一緒に過ごし、彼女のことをよく知る私にそんなことができるわけがない」とユーリック氏は語り、ハレプは自ら開けたペットボトル以外には決して手を出さず、ビタミンCを摂る時でさえ医者に確認していたほど、ドーピング違反には普段から細心の注意を払っていたと説明している。
一方、ほかとは違う視点でコメントした元世界王者イリ・ナスターゼ(ルーマニア)の発言が物議を醸している。以前から差別的な言動が目立つ76歳のナスターゼは、テニス界の内部事情に詳しい人々から情報を得たとして、ハレプはその国籍がゆえにドーピング疑惑が明るみに出たと主張。元世界女王のマリア・シャラポワ(ロシア)とセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)もハレプと同じような状況になったことがあるものの秘密裏に対処された、とナスターゼは言う。シャラポワはかつて意図的ではなかったものの実際に禁止薬物を摂取していたことで15ヶ月の出場停止処分となったが、ナスターゼがその時のことを言っているのか、シャラポワの別の疑惑について知っているのかは定かではない。セレナは27年間のキャリアでドーピング違反を言い渡されたことは一度もない。
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は2021年「WTA1000 シンシナティ」でのハレプ
(Photo by Dylan Buell/Getty Images)