「全米オープン」(アメリカ・ニューヨーク/8月29日~9月11日/ハードコート)で使用されるボールをめぐって、世界女王のイガ・シフィオンテク(ポーランド)が異を唱えたことから波紋が広がっている。米スポーツメディア ESPNなど複数のメディアが報じた。
グランドスラム4大会の中で「全米オープン」は唯一ボールを男女で使い分けており、メーカーは同じだが、女子が使用するモデルは男子のものよりも軽い。そのことについてシフィオンテクが先日のシンシナティ大会の記者会見で異議を唱えたことから、ボールの違いが一気に話題となった。彼女は「全米オープン」で使われるボールが男女で異なることと、女子のボールそのものに対して不満を露わにしている。
「どうして男子と違うボールを使うのかわからないわ。もしかしたら15年くらい前に重いボールで女子選手が肘を痛めたことで(重さを)変えたのかもしれないけど、今の女子はその頃に比べてフィジカル面も向上しているし、怪我の予防も進んでいる。それに、同じボールはヨーロッパでは手に入らないし、たとえお店で買えたとしても、大会で使われているものとはまったく別物。だから、ポーランドで練習する時は“全米オープン”の男子のボールを使うしかないの」
「(女子のボールは)すごくコントロールが難しいと思う。その分ミスが多くなるし、今の女子のパワフルなプレースタイルには軽すぎる。そのボールを使い始めて3ゲームくらい経つともっと軽くなって、扱いがより難しくなるわ。終盤ではものすごく軽くなるから時速170kmのサーブも打てないくらい。でも、みんな同じ条件で戦うから、なんとかそれに対応しようとしているの」
シフィオンテクのこの発言を機に、ほかの選手にも「全米オープン」のボールについての話題が振られるようになり、それぞれが意見を述べている。シフィオンテクが「ほかのトップ10の女子選手の多くも文句を言っている」と言った通り、世界ランキング4位のパウラ・バドーサ(スペイン)や世界8位のジェシカ・ペグラ(アメリカ)も軽いボールを好まないと発言。WTA(女子テニス協会)の選手協議会に所属するペグラは、ボールが男女で統一されるようにもっと積極的に働きかけると話した。また、元世界女王アシュリー・バーティ(オーストラリア)のコーチを務めていたクレイグ・タイザーも以前、「“全米オープン”は女子のボールを変えることを真剣に検討するべきだ。このままだとアッシュのような選手は絶対に優勝できない」と述べていた。実際、バーティはグランドスラムの中で「全米オープン」だけ優勝しておらず、6回の出場で4回戦進出が最高成績だった。
一方で、世界20位のマディソン・キーズ(アメリカ)と世界21位のペトラ・クビトバ(チェコ)は軽いボールの方が自分たちのプレースタイルに合っていると主張。ちなみに男子では、世界王者のダニール・メドベージェフ(ロシア)が「全米オープン」のボールは消耗が少ないのでプレーしやすいと話した一方、ラファエル・ナダル(スペイン)は「重要なトピックとは思わない」として話題を早々に打ち切っている。
「全米オープン」の本戦開幕を前に運営側のアメリカテニス協会(USTA)が本件について声明を出したが、ボールの決定については関係各位と密に連携しており、今後の大会でも同様の努力を継続していくと述べるに留まっている。一方、WTAのグローバルコミュニケーション担当の上級副社長は、組織としてすでに選手の懸念に耳を傾けており、この問題をさらに検討すると話している。軽いボールが使われているのは怪我のリスクを軽減するためだと説明しているが、引き続き状況を注視し、選手やスポーツ科学の専門家と話し合いを重ねていくという。
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は「全仏オープン」記者会見でのシフィオンテク
(Photo by Robert Prange/Getty Images)