第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)と元世界ランキング13位のニック・キリオス(オーストラリア)が対戦した今年の「ウィンブルドン」決勝で、キリオスに酔っ払い扱いされたファンが法的措置に踏み切ったことがわかった。米スポーツメディア ESPNなど複数のメディアが報じている。
当時世界40位だったキリオスにとって、初のグランドスラム決勝となったこの試合。キリオスは第1セットを取ったものの、第2セットからジョコビッチに追い込まれ始めると徐々に冷静さを失い、自分のチームや主審に向かって怒鳴る場面が増えていく。そんな中、キリオスがサーブを打つ体勢に入ってからも声をかけてきた女性の観客が彼の逆鱗に触れてしまった。キリオスはその観客のことを「700杯くらい飲んでそうな女性」「完全に酔っぱらっている」などと表し、退場させるよう執拗に主審に訴えた。彼女は一旦退場することになったが、15分後には再び入場を許可されている。のちにアンナ・パルスという名前のポーランド人の弁護士だと判明したその観客は、試合直後にメディアのインタビューに応じ、アルコールは2杯しか飲んでいなかったと釈明しているが、意図せずに迷惑をかけたことは謝罪していた。
ところが、この出来事から1ヶ月以上が経った今月23日、パルスさんは弁護士を通じて声明を発表し、キリオスを名誉棄損で訴えることを明らかにした。「キリオス氏の無責任ででたらめな主張は私に多大な損害を与え、会場から一時的に退場させられただけでなく、同氏の誤った主張が放送や記事を通して世界中の数百万人に伝わったことで、私と家族に非常に大きな損害と苦痛を与えました」とパルスさんは訴えている。
「ウィンブルドン」決勝での出来事とあって、キリオスが特定のファンを批判したことはスポーツ関連のメディアだけでなく、イギリスのタブロイド紙などでも当時取り上げられた。中にはパルスさんと一緒に観戦していた母親の顔や全身をはっきりと捉えた写真を載せたメディアもあった。
パルスさんは声明の中で次のように述べており、すでに法的措置を進めているという。
「私は決して好んで訴訟を起こすような人間ではありませんが、いろいろと検討した結果、私の汚名をそそぐためにはキリオス氏に対して名誉棄損の訴えを起こす以外に方法はないという結論に至りました。私が法的措置を講じるのは、いわれのない罪を晴らし、このような主張が繰り返されるのを防ぎたいからです。勝ち取った損害賠償はすべてチャリティーに寄付するつもりです。キリオス氏が私と家族に与えた被害を反省し、この問題の迅速な解決を申し出てくれることを望んでいます。彼がそれを拒否するのであれば、私には高等裁判所で正当性を証明する覚悟ができています」
キリオスは別の訴訟にも対応しなければならない。彼は昨年まで交際していたキアラ・パッサリさんに暴行の疑いで告発されており、当初は8月2日にオーストラリアの裁判所に出廷するよう命じられていた。大会スケジュールとの兼ね合いで3週間の延期が認められたが、キリオスの弁護士はそれをさらに11月25日まで先延ばしにすることを求めた。裁判官はこれを却下しているが、ひとまず10月4日までの延期は認めたと報じられている。この日程は「楽天ジャパンオープン」(日本・東京/10月3日~10月9日/ハードコート)、「ATP500 ヌルスルタン」(カザフスタン・ヌルスルタン/10月3日~10月9日/室内ハードコート)と重なる。
「ウィンブルドン」の準優勝に続いて「ATP500 ワシントンD.C.」ではシングルスとダブルスの両方で優勝するなど、好調なシーズンを送っているキリオスは、「全米オープン」(アメリカ・ニューヨーク/8月29日~9月11日/ハードコート)に向けて準備を進めている。
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は「ウィンブルドン」でのキリオス
(Photo by Simon Stacpoole/Offside/Offside via Getty Images)