「全仏オープン」(フランス・パリ/5月22日~6月5日/クレーコート)で熱狂的な地元の観客がもたらす問題が話題となっている。米スポーツメディア ESPNなど複数のメディアが報じた。
フランス人選手が出場する試合になると、コートはまるでサッカーの試合のような騒がしい雰囲気に包まれ、応援していた選手が勝利すれば、ファンが熱唱するフランス国歌は広い敷地内の反対側にまで聞こえるという。そんな熱狂的な観客の洗礼を受けた選手たちは、それぞれの反応を示している。
世界ランキング97位のディアン・パリー(フランス)と世界64位のスローン・スティーブンス(アメリカ)が対戦した女子シングルス3回戦では、スティーブンスがアンフォーストエラーを犯すたびに観客が国歌を高らかに歌った。それはパリーがショットを決めた時も同じだったが、スティーブンスはそんな観客にも耐え、1回戦でディフェンディングチャンピオンのバーボラ・クレイチコバ(チェコ)を破ったパリーの快進撃に終止符を打った。
19歳のパリーは「フランス人選手はみんな、すごく応援してもらったと感じているわ」と試合後に話している。一方、完全にアウェイの雰囲気の中で勝利を手にしたスティーブンスは、「グランドスラムでホームの選手と対戦するのはいつだって大変。知っての通り、フランスの観客はいつもすごく熱心で、(地元の選手にとっては)素晴らしいサポーターだから厳しい試合だったわ」とコメントを残した。
世界74位のユーゴ・ガストン(フランス)に男子シングルス1回戦で敗れた第19シードのアレックス・デミノー(オーストラリア)は、あまりにも偏った応援を非難、さらに今大会をもって20年近い現役生活に幕を下ろした元世界5位のジョーウィルフリード・ツォンガ(フランス)と同じく1回戦で対戦した第8シードのキャスパー・ルード(ノルウェー)は終始、会場中に響き渡る手拍子やコールに耐えなければならなかった。
とはいえ、フランス人選手が出場していなければ上記のような問題が起きないわけでもない。男子シングルス4回戦で第15シードのディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)と対戦した第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)は、会場に入場する際に歓声と同じくらいのブーイングで迎えられている。これにはフランスのテニス関係者も「敬意がない」と観客を非難。女子の試合でも、ワイルドカード(主催者推薦枠)で出場していた世界127位のダリア・サビル(オーストラリア)が、ローランギャロスのファンの強い支持を集める世界59位のマルチナ・トレビザン(イタリア)と対戦した3回戦で、ウォーミングアップの時から叫んでいる観客がいて圧倒されたと話している。
試合の結果によっては態度を急変させることもあるフランスのファンたちは、たびたびその行き過ぎた行為によって地元の選手をも傷つけることがある。女子選手として2番目の長さとなる61回連続のグランドスラム本戦出場を果たしていた世界40位のアリゼ・コルネ(フランス)は、2回戦で2017年大会チャンピオンで第13シードのエレナ・オスタペンコ(ラトビア)を退けた。コルネは試合後に応援してくれた観客について、「自分の味方でない時はとてもつらいものだわ。今日の観客はプレッシャーをかけたりせず、むしろエネルギーを与えてくれて、それはまさに私が必要としていたものだった」と話していた。しかし、オスタペンコとの試合で両足を痛めたコルネは怪我を押して出場した3回戦で、世界74位のジャン・チェンウェン(中国)との対戦中に痛みに耐えられずリタイアを余儀なくされた。これに対して一部の観客が不満の声をあげ、コルネはブーイングされながらコートを後にしている。「長年にわたって私がコート上でやってきたことを考えると、本当にやりきれない。不公平なことだからすごく辛いし、そういうことはとても傷つくわ。身体の痛みよりも心の痛みの方が大きかった。これは虐待と言ってもいいわ」とコルネは語っている。
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は2021年「全仏オープン」のテニスコート
(Photo by Clive Brunskill/Getty Images)