今年の「ウィンブルドン」(イギリス・ロンドン/6月27日~7月10日/グラスコート)からロシアと同盟国のベラルーシの選手が締め出されることについて、ラファエル・ナダル(スペイン)やノバク・ジョコビッチ(セルビア)をはじめとする選手たちが次々に声をあげている。仏ニュースメディア France 24など複数のメディアが報じた。
ロシアによるウクライナへの侵攻が深刻化する中、「ウィンブルドン」を運営するAELTC(オールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブ)とLTA(イギリステニス協会)が、軍事侵攻に反対する姿勢を示すためにロシアとベラルーシの選手を出場させないと4月20日に発表した。ATP(男子プロテニス協会)とWTA(女子テニス協会)は「国籍に基づく差別」だとしてこの決定に強く反対しており、同大会で獲得できるランキングポイントを減らすことや、金銭的なペナルティを課すことを検討していると報じられている。ATP、WTA、ITF(国際テニス連盟)および4つのグランドスラムを主宰する運営団体はこれまでに、国を代表しないことを条件に両国の選手のプレーを認め、連名でウクライナに多額の寄付をするなどの団結力を示していた。
今回の決定を受けて、21回のグランドスラム優勝を誇るナダルは「仲間のロシア人選手に対して不公平だ」とコメントし、次のように続けた。「侵攻は彼らのせいではない。同じ選手としてとても気の毒だと思う。僕たちが選手として立ち上がる必要があるかどうか、今は様子を見る必要がある。でも何かが間違っているのは確かだ。政府の命令には従わなければならないけど、今回の場合、大会側は強制されたわけではないのに、政府による勧告を受け入れるという最も極端な選択肢を選んだ」
「グランドスラムがATPやWTAとは異なる組織によって運営されているのはわかっているけど、ツアーの中で最も高いランキングポイントを付与されている。それだけ重要な大会なんだ。優勝すれば2000ポイントももらえるわけだから、誰だって出場したいと思う」
「残念ながら今はロシアの選手たちにとってとても複雑な状況で、様々なことが起きていると言える。そして、多くの人が命を落とし、苦しんでいるウクライナの状況に比べたら、僕たちのテニス界で起きていることなんて些細なことだ」
ナダルは理事会に勧告を行うことができるATP選手会のメンバーであるが、「ウィンブルドン」はATPの管轄外にあるため、その影響力は限定される。
元世界王者のアンディ・マレー(イギリス)は「選手を締め出すことには賛成できない。だからと言って正しい答えがあるわけじゃないと思うんだ。ロシアとウクライナ、両方の選手と話してみたよ。僕はどちらかの味方をするつもりはない」とコメントしている。また、すでに反対の姿勢を示している世界王者のノバク・ジョコビッチ(セルビア)も、新型コロナワクチンを打っていないことで1月の「全豪オープン」に出られなかったことを引き合いに、再び発言している。「状況は違うけれど、今年の初めに同じような経験をした僕は、プレーできないことがいかに悔しいかを知っている。“ウィンブルドン”の決定を支持しないという立場は今でも変わらない。フェアじゃないし、正しくもないと思うけど、これが現実なんだ」
「ウィンブルドン」欠場を余儀なくされる選手の中からは、世界ランキング8位のアンドレイ・ルブレフ(ロシア)が先日、今回の決定を「非論理的なもの」として批判し、AELTCにほかの方法を提案するも聞き入れてもらえなかったと明かしていたが、ほかにも複数の選手が口を開いた。昨年の大会で準々決勝にまで残った世界26位のカレン・ハチャノフ(ロシア)は「すごく悲しくて、がっかりしているし、打ちのめされている。最も大きな大会でベストを尽くすチャンスすらないなんて、あまりにも悲し過ぎる」と悲痛な思いを口にしている。また、AELTCと直接話したという世界17位のビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)も「言っている理屈がわからないし、話の筋が通っていない」と納得していない様子を露にしている。
「ウィンブルドン」が国籍を理由に選手の出場を禁止するのは、第二次世界大戦直後にドイツや日本の選手を除外して以来のこととなる。
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は、2020年「ATP500 アカプルコ」でのナダル
(Photo by Hector Vivas/Getty Images)