破産宣告の際に金融資産や不動産を隠し持っていた容疑で訴えられている元世界王者のボリス・ベッカー(ドイツ)が、今月始まった裁判でその財政状況を語った。仏AFP通信など複数のメディアが報じている。
6度のグランドスラム優勝を誇るベッカーだが、最初の妻との離婚や複数の事業の失敗によって膨大な借金を抱えた上、不動産購入のためにさらに5億円以上を借り入れようとしたところ、2017年6月にイギリスの法廷から破産宣告を受けることになった。その際、トロフィーやその他の賞品を引き渡さなかったり、財産や負債を隠匿したりして、資産の特定を故意に妨げたとして24件の罪に問われているが、ベッカーはすべての罪状を否認している。今月21日に裁判が始まり、ベッカーが証言台で語った内容の一部が報じられた。
裁判での証言によれば、ベッカーの破産は2013年から2014年にかけて合計885万ドル(約8億円)をプライベートバンクや実業家から借り入れたことが主な原因だという。ベッカーはまた、2002年にドイツで脱税と脱税未遂で有罪判決を受けたことをめぐり、スイス当局から約730万ドル(約6億6000万円)の借り入れがあり、140万ドル(約1億3000万円)弱の負債も負っている。
ベッカーは現役時代に賞金やスポンサー契約で約3800万ポンド(約61億円)を獲得していたと言われているが、家や不動産の購入だけでもそれ以上の額を費やしている。1999年にテニス界を引退すると、2013年から2016年にかけてはノバク・ジョコビッチ(セルビア)のコーチを務めたり、大会の解説者を務めるなどして収入はあったものの、現役時代に比べると収入は激減したとベッカーは言う。そのような状況の中で2001年に元妻のバーバラ・ベッカーと離婚した際には2人の息子に高額な養育費を支払うことに。その上、娘のアンナ・エルマコバと彼女の母親も支援しなければならず、430万ドル(約3億9000万円)するロンドンのアパートメントも買い与えたという。そして、ベッカーは現在も毎月3万8400ドル(約350万円)の家賃がかかるウィンブルドンの家に住むなどして、贅沢なライフスタイルを維持し続けている。
ベッカーが2017年に破産宣告を受けたのは「ウィンブルドン」の開幕直前で、英BBCだけでなくオーストラリアと日本のテレビ局で放送される番組でも解説を務める予定となっていた。「ご想像の通り、私はその事実を知ってとてもショックを受けた」とベッカーは当時を振り返っている。「私が破産したことは世界中で報じられ、“ウィンブルドン”の会場でも誰もが知っていた。破産したことで私は非常に恥ずかしい思いをした」
また、破産は当時の妻シャーリー・“リリー”・ベッカーとの「ストレスの多い時期」と重なり、家では別々の部屋で暮らしていたことをベッカーは陪審員に打ち明けた。当時の悲惨な状況を表す例としてベッカーは、ロジャー・フェデラー(スイス)が出場していた男子シングルスの準々決勝の解説をしていた時には、「妻が家の家具や窓を壊していると息子から電話があって、私が現場にいる間に警察が来た」と話している。
ベッカーは破産宣告を受けたことで、特にドイツと英国における自身のイメージが下がり、スポンサーが離れたことが支払い能力に影響を及ぼしていると発言。「破産して、そのことで毎週新聞の見出しを飾るのはとても辛いことだ。私の名で大金を稼ぐのは非常に難しくなってしまった」と述べ、現在も年間およそ250万ポンド(約4億円)の収入はあるものの、破産前に比べると半減しており、不動産などを売却して借金の返済に当てているという。驚くべきことに、現役時代からベッカーは金銭の管理を含め、コート外のことはすべて人任せにしていたため、今では自分の名義で作られた口座がどれだけあるかも把握しておらず、明細は一度も見たことがないという。
ベッカーが証言を重ねるにつれ、裁判が今後どのような展開を迎えるのかが注目される。
※為替レートは2022年3月30日時点(文中のドルはオーストラリアドル)
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は正装姿のベッカー
(Photo by Gisela Schober/Getty Images)