ロシアによるウクライナ侵攻に終わりが見えない中、WTA(女子テニス協会)の会長を務めるスティーブ・サイモン氏がロシアとベラルーシの選手を引き続き大会に参加させたい意向を示した。英BBCが報じている。
2月24日にロシア軍の攻撃が始まってから数日後、IOC(国際オリンピック)がロシアとベラルーシの選手と役員を国際大会に参加させないよう各競技団体に勧告。もしも参加する場合は国籍を表に出さない形での出場を勧めた。IOCは最終的には主催者の判断に任せるとしたが、これを受けてFIFA(国際サッカー連盟)などは早々にロシアチームの大会参加を認めないと発表。一方、テニス団体は当初、ロシアとベラルーシで開催される大会を中止するという発表にとどまっていた。
これに対して元世界ランキング3位のエリナ・スビトリーナ(ウクライナ)が大会のボイコットを宣言するなど、ウクライナの女子選手による抗議を受けて、WTAとATP(男子プロテニス協会)がこれまで選手紹介ページやドロー表に載っていたロシアとベラルーシの国旗を各公式サイトから削除した。また、10月にモスクワで予定されていたWTAとATPの大会は一時的に中止され、ロシアとベラルーシで開催されるすべてのITF(国際テニス連盟)の大会が無期限で中止となった。両国は国別対抗戦からも除外されているが、個人としては大会への参加を認められている。そんな中、この度、サイモン会長がロシアとベラルーシの選手は引き続きツアーに参加できるようにするべきだと主張した。
「状況がこれからどうなるかはわかりませんが、我々が国の指導者の政治的立場を理由に選手のツアー参加を禁止したことはこれまでに一度もないと断言できます。その方針を変えるには、とてつもなく重大なことがなければなりません」
ロシアやベラルーシの選手の出場禁止はチームスポーツだけでなく個人競技にも広まっており、陸上競技やバドミントン、カヌー、ボートの大会を運営する団体は既にそのような対応を行っている。今のところテニスの各団体はそれに倣う意向は示していないものの、各国政府がこれらの選手の入国を禁止するような事態になれば、ツアー大会の運営もそれに従わざるを得なくなる。サイモン会長もそのことを認めている。
「当然、我々も政府のルールには従わなければならず、そうなれば立場を変えるしかありません。非難されるべき残酷な行為を行っている独裁的な指導者の決定によって、これらの個々の選手たちが罰せられるべきではないと私は強く感じています。しかし、もし出場を停止するようなことになれば、ロシアとロシア国民に対して、彼らの政府が下した決断の代償を払わせるという戦略に加担することになり、これは我々が支持するような方針ではありません。それに伴って様々な問題が発生するため、できればそうならないことを願っています。選手たちだけを対象にするのもおかしなことです。ロシアからの難民はどうするのですか?難民に対しては選手たちとは違う対応をするというのでしょうか」
「制裁を継続し、平和のためにできる限りのことをするべきだとは思います。しかし、選手たちは何の罪もない犠牲者であり、彼らが孤立してしまうことは公平だとは思えません」
なお、このサイモン会長の発言と前後して、イギリスでは同会長が懸念していた動きが起きつつあるようだ。イギリスのスポーツ大臣を務めるナイジェル・ハドルストン氏は15日、世界王者のダニール・メドベージェフをはじめとしたロシアの選手たちが今年の「ウィンブルドン」(イギリス・ロンドン/6月27日~7月10日/グラスコート)に出場するためには、ウラジミール・プーチン大統領の支持者でないことを示す必要があるかもしれないと述べた。
公聴会の場でハドルストン氏は「ロシアの国旗を掲げる者には絶対に出場を許してはならないし、出場を可能にしてはならない」と発言。「プーチンの支持者ではないという一定の保証が必要であり、それを得るために必要な要件を検討している」とも述べており、「ウィンブルドン」を運営するオールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブ(AELTC)も積極的に議論に加わっているという。
(WOWOWテニスワールド編集部)
※写真は「東京オリンピック」混合ダブルスで金メダルを獲得したアンドレイ・ルブレフ(右)とアナスタシア・パブリウチェンコワ
(Photo by Clive Brunskill/Getty Images)