「もうこのメンバーで沖縄に来ることはないね」
メンバーの一人がこんなことをつぶやいた。
2月20日〜24日の5日間、沖縄県・豊崎海浜公園テニスコートにて開催された「リポビタンPresents伊達公子×YONEX PROJECT」の2期生第7回キャンプ。その4日目の夕方、1日の練習を終えた後に主宰の伊達が、ジュニアたちに「海に行こう」というプレゼントを贈った。
この沖縄も含め、2期生のキャンプはあと2回となり、4月にはプロジェクトの卒業を間近に控えている選手たち。キャンプを終えた後には全国高校選抜テニス大会に出場する選手や、海外遠征に旅立つ選手もいる。
今回のキャンプは「進化」をテーマに掲げた。
「『進化』といっても、人それぞれの捉え方や、感じ方が違ったりする中で、テニスにおいては、プロであれ、ジュニアであれ、今の自分よりも成長したり、乗り越えていくことが必要。まずは『進化』とは何かを考え、行動に移し、実感として考えてほしいと思いました」と、伊達は今テーマについて語る。
選手たちは、試合に負けた時には、うまくいかなかったショットに目がいきがちだ。
「バックハンドが不調だった」
「サービスの確率が悪かった」
当然、それは事実としてあり、そこに目を向けることも必要なことではあるが、「進化」を遂げるには、もっと広い部分を見なければならない。
自分の目指すテニスはどういうものか、それに向かって何をすべきなのか。そのためには、時として、ミスを恐れず、目指すプレーをやり続ける必要がある。負けるのを恐れて無難なテニスをするのではなく、プレッシャーのかかった時こそ、そのプレーを出せるようにしなければ、本当の「進化」とは言えないということだ。
キャンプの練習内容としては、サーブやリターンなど、1本目のショットから、自分がどういうプレーでポイントをフィニッシュさせるのかまで、しっかりイメージしてプレーを行うこと。ボレーの精度のアップや、ドロップショットを打たれたときの切り返し、ゲーム感覚を養うためのダブルスなど、オンコートの練習は多岐にわたる。
また、コンディショニング、ストレングストレーニングにおいては、走ること、止まることをさらに強化するための、自重トレーニングや、サーキットトレーニング等、様々なメニューが行われた。
このキャンプは、オンコート練習は、午前2時間、午後2時間の合計4時間。フィジカルは午前約1時間、午後約2時間の合計3時間が費やされ、トレーニング内容はかなり厳しい。
しかし、これを乗り越えていくことが、彼女たちの血となり肉となり、さらには「これだけやった」という自信にもつながっていく、実際、昨年4月、同様に行われた沖縄キャンプよりも、身体は一回り大きくなってきている。
川田真琴トレーナーは「股関節の使いかたなど、選手たちは理解してきたようで、動作の修正が早くなってきた」とその向上を語り、「自分の身体というものを知り、向き合ってきたものが、成果として出てきているのがわかってきたので、以前よりもよりもセッション時の余計な話が減っている」と取り組む姿勢についても変化があるという。
メンバーの網田永遠希は「キャンプの最初はやっぱりきついと思ったけど、今回はすぐに慣れて、短く感じるくらい、あっという間でした」と、自らの成長を感じ、石井心菜も「前より足が速くなったと思えるし、トレーニングも抜かずにできた」と自信をもつけた。
また、JTA派遣の館崎雅治トレーナーは、「3日目くらいは一番つらい時期なのですが、走るという点においては、良くなっています」と成果を語った。
走ることに課題を抱えていた林妃鞠も「今回が1番きつかったけれど、すごく達成感がありました。最初はみんなのダッシュが速くて1番最後でしたが、最後はみんなについていけるようになりました」と喜んだ。
とはいえ、選手たちは、全身筋肉痛となり、身体も重くなってくる。そこでもたらされたのが、1日の最後にランニングで向かった沖縄の海だった。
泳ぐこそできない時期だが、素足で波と戯れる姿は、彼女たちがまだジュニアだということを想起させられる。プロを見据え、コート上で真剣な眼差しで自分と向き合う時間をしばし忘れる、リフレッシュであり、現メンバーとの思い出の時を過ごした。「自分としても求めていた『進化』というテーマで、積極的に前へ出ていく練習に取り組めて良かった」(岸本聖奈)
「ファーストボレーからの組み立てで良いイメージをつけることができた。試合でどんどん使っていきたい」(古谷ひなた)
「以前はパワー負けしていた相手に、最近は少しずつ押せるようになってきた。今後の海外遠征でも生かしたい」(添田栞菜)
フィジカル面、技術面において、目指すべき未来を明確化した今回のキャンプ。確かにこのメンバーで沖縄に集うことは、もうないだろう。
しかし、回を重ねるごとに絆を深め、共有してきた時間と思いは、彼女たちの心の中にいつまでも残り続けるに違いない。
(保坂明美)
写真提供:ヨネックス
【放送・配信情報】
「伊達公子と世界を夢見る8人の少女たち ~Go for the GRAND SLAM~」
3/25(土)午後5:00[WOWOW ライブ][WOWOW オンデマンド]
出演:伊達公子、林妃鞠、木下晴結、網田永遠希、木河優、添田栞菜、岸本聖奈、古谷ひなた、石井心菜
WOWOWが女子テニス未来応援プロジェクトで1年間密着した、グランドスラム出場を夢見る8人の女子ジュニアたち。その成長の軌跡を集大成として振り返る特別番組。詳しくはこちら>>