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国枝慎吾から受け取ったバトン。16歳の小田凱人が四大大会初の決勝進出

写真は2022年「楽天オープン」での小田(右)と国枝(左)

「国枝(慎吾)選手が引退してから初めての大会ということで、勝つべき人は僕だって気持ちで試合していました」
 グランドスラム初の決勝進出を決めた小田凱人が準決勝を振り返った。なんという自信、肝の据わりっぷりだろう。

もちろん、驕りという言葉は当たらない。自他共に認める国枝の後継者だ。国枝は以前、「これから車いすテニス界は彼を中心に回っていく」と小田に最大級の褒め言葉を送った。昨年10月の楽天ジャパンオープンで二人は決勝で対戦、大接戦を演じたが、小田はファイナルセットのタイブレークで敗れた。薄氷の勝利を得た国枝は、生々しい言葉で試合中の心境を明かした。

「彼がデビューしてから、いつかやられるかもな、という思いはずっとあった。今日はその日になりそうだった。あ、今日か、というのが何度も(頭を)よぎった」

一方、小田にとって国枝の存在は競技に取り組むモチベーションの一つだった。初めて出場した昨年のウィンブルドンで、小田は「国枝選手に勝つことは夢だ」と話した。

「高い舞台で、四大大会やパラリンピックで戦うことがものすごく楽しみだし、自分が勝つというのも、(テニスを)始めたときからの一つの夢でもある」

今回のオーストラリア遠征に向けて出発するまさにその日に、小田は国枝から引退を告げられた。驚いたが、実戦に向けてすぐに気持ちを切り替えた。
「自分が頑張らないと、僕は(国枝のバトンを)しっかりとつなげていかないとだめだなっていう責任感は、今すごく強く感じている」

後継者の自負を内に秘め、小田は初めての全豪に挑んだ。1回戦、準々決勝は危なげなく勝ったが、課題の残る内容ではあった。だが、準決勝では第2シードのグスタボ・フェルナンデス(アルゼンチン)と堂々と渡り合い、最終セット7-5の勝利。このセットは3-5の劣勢から巻き返し、勝負どころを制した。

「リードした場面でも、相手がマッチポイントを握った場面でも、自分なりのテニスをすることが僕にできる唯一の勝つ手段だった。それをできたからこそ、巻き返すことができた」

もともと接戦での強さには自信を持っている。だが、決勝進出の懸かる大事な場面で、結果を恐れず、「唯一の手段」を遂行したのは立派だった。その勝負強さは、経験から学んだものだという。

「たくさん負けを経験し、いろんな勝ち方をしてきた。一試合一試合積み重ねていく中で、こうしたら負けるっていうのもあれば、こうすれば勝てると明確になってきた」

というのだ。それにしても、出てくる言葉の一つ一つが、とても16歳とは思えない。手垢の付いた言葉だが、「人間力」の大切さを思わずにいられない。

女子シングルスで決勝進出を決めた上地結衣も、小田にエールを送る。

「急成長で、ジュニアの年齢にもかかわらずグランドスラムに出て、こうして決勝に残った。国枝さんがつくってくださったこの道を、10歳離れた私が一緒に戦わせていただいた。先日引退されて、自分もメインになってこれから引っ張っていかなくてはいけないんだなと思い始めたときに、彼が来てくれた。彼とは12歳離れているので、そういうふうにして、日本の車いすテニスの層が続いてくれればうれしい。一緒に頑張りたい気持ちがある半面、彼以上の成績を自分も残したいと思う」

上地も小田と同様に、国枝に続こう、バトンを引き継ぎたい、という思い、責任感が強いことが分かる。今大会からドロー数が増え、日本勢はシングルスで男子4人、女子5人が出場している。長らくこの競技の大国だったオランダの男子3人、女子3人を抑え、最多となる。決勝に進めなかった日本選手たちも、気持ちは同じだろう。

国枝に勝つという夢を果たせなかった小田だが、「勝てずに終わったのは正直くやしい。そのくやしさが将来、大きな舞台で力になると思う」と決意を新たにしたという。国枝がいない最初のグランドスラムで、小田はいきなり決勝の大舞台に立つことになる。

(秋山英宏)

※写真は2022年「楽天オープン」での小田(右)と国枝(左)
(Photo by WOWOW) 

「全豪オープンテニス」1/16(月)~1/29(日) 
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秋山英宏

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1961年生まれ。大学卒業後、フリーランスライターとしてスポーツ、レジャー分野を中心に雑誌、新聞で執筆活動を行なう。1987年からテニスの取材を開始し、グランドスラムをはじめ、国内外の主要トーナメントを取材。テニス専門誌に多くの観戦レポート、インタビュー記事などを執筆している。現在、日本テニス協会広報委員会副委員長を務め、同協会の出版物やメールマガジンなどにも寄稿している。

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