住友ゴム工業(株)と日本テニス協会共催の「ダンロップ全豪オープンジュニアシリーズ」(「DUNLOP ROAD TO THE AUSTRALIAN OPEN JUNIOR SERIES IN YOKKAICHI」)が今年も11月に三重県四日市で開催された。WOWOWテニスワールドでは本大会の優勝選手や大会ディレクターを取材し、「全豪オープンジュニア」までの道のりを全3回にわたって連載する。第1回目となる今回は、3年ぶりに実現した国際大会についてディレクターが持つ想いや、憧れであるグランドスラムの舞台を目指して戦った選手たちの様子をお伝えする。
今年で5回目を迎える「ダンロップ全豪オープンジュニアシリーズ」は、これまで優勝者に「全豪オープンジュニア」本戦や「トララルゴンジュニア国際」予選のワイルドカード(主催者推薦枠)を与えたり、住友ゴム工業(株)がオフシャルスポンサー契約を締結している「IMGテニスアカデミー」や「ムラトグルーテニスアカデミー」へ遠征する機会を与えたりと、日本およびアジアのジュニア選手の活躍と発展をサポートしてきた。
↑会場となった四日市テニスセンター。試合前にサブセンターコートにて練習する選手たち
そうした試みは着実に実を結んでおり、昨年大会の男子の部で優勝した原﨑朝陽選手(日本/ノア・テニスアカデミー神戸垂水)は、今季ジュニア大会のみならずATPツアーの下部大会であるチャレンジャー大会やITF大会に出場し勝利を挙げている。女子の部の前回チャンピオンである木下晴結選手(日本/LYNX TA大阪)は、今年7月に行われた「ウィンブルドン」ジュニアのシングルスで3回戦に進出。さらに10月にはITF大会で、予選から決勝まで駒を進め準優勝を果たすなど、それぞれプロへの一歩を踏み出し始めている。
↑ウィンブルドン2022ジュニアでプレーする昨年優勝者の木下晴結選手
「ダンロップ全豪オープンジュニアシリーズ」は過去2年間、新型コロナウイルスの感染拡大により海外選手を招聘できず、「全豪オープンジュニア」のワイルドカード選手権も中止に。そのため、2020年と2021年は国内選手を対象に、「トララルゴンジュニア国際」の予選ワイルドカード選手権を開催していた。
しかし今年は3年ぶりにアジア・オセアニア地域のトップ選手の招聘が実現。そして「全豪オープンジュニア」のワイルドカード選手権も復活した。加えて、新たな取り組みとしてこの国際大会の直前に、「2023 ダンロップ ジュニア ワールドチャレンジ イン 四日市」という国内大会も実施。優勝者には、海外遠征に使用できるトラベルバウチャー(渡航費や滞在費の援助)と、続けて国内大会終了後に行われる「全豪オープンジュニア」のワイルドカード選手権への出場権を付与し、日本人選手が世界に挑戦する場を作った。
↑大会開催前日に行われたレセプションパーティーの様子。アジア圏各国から選手が集まり、国際色豊かな大会となった
「楽天ジャパンオープン」や「東レ パン・パシフィック・オープン」など日本でも今年から国際大会が続々と復活する中、本大会でも2019年大会以来で海外選手を招待することができたことに関して、大会ディレクターの中西伊知郎氏は、「入国制限が長く、緩和させるのか、されないのか不透明だったのですごく心配していました」と当時の心境を明かした。また、これまで東アジアの選手を中心に招聘していたが、今年からはアジア・オセアニア地域に広げたことで、アジア全体のレベルアップを目標としているという。「最終的にはアジアから、そしてアジアの中でも日本から良い選手が出てきてくれることを期待したいと思います」と想いを語った。
↑大会ディレクターの中西伊知郎氏
優勝をすれば夢のグランドスラムに直結する大会として、多くの選手が感謝を口にしていたと聞いた中西氏は、「嬉しいです。主役は選手なので、選手に頑張ってもらうためにどういう大会にするか、どういった準備をするかというのが主催者のやれること。何か要望があれば汲んで、今後も良い大会にしていければと思います」と話す。
国際色豊かになった今年の「ダンロップ全豪オープンジュニアシリーズ」は、男子の部には日本・韓国・台湾・香港・タイ・スリランカ・マレーシア・シンガポールから、女子の部には日本・中国・韓国・台湾・香港・タイ・マレーシアから選手が参戦。
↑3位に入賞したHayden Menon選手(マレーシア)。準決勝でプレーする様子
本大会の男子の部で3位に入賞したHayden Menon選手(マレーシア)は「すごくいい大会。コートもインドア・アウトドアどちらもあるから天候の心配もないですし。日本に来られたことはとてもいい経験です」と語り、女子の部で準優勝を果たしたSalakthip Ounmuang選手(タイ)は「この大会に出場するのは初めてなのでワクワクしました。見たことある選手や、ない選手もいたので楽しみにしていました」とコメント。
↑女子の部で準優勝したSalakthip Ounmuang選手(タイ)。WOWOWインタビューに答える様子
見事優勝を果たしオーストラリアへの切符を手にしたのは、富田悠太選手(日本/ノア・テニスアカデミー神戸垂水)と辻岡史帆選手(日本/SYT月見野テニススクール)。富田選手は昨年大会の決勝で原﨑選手に敗戦した経験を持つが、今年はきっちりと優勝してみせた。「去年は決勝で負けてしまうという取りこぼしがあったのですが、今回は最後まで勝ち切ることができたのでそこは成長したと思います」と振り返る。今回で3回目の本大会出場になる富田選手は、国際大会ならではのレベルの高さを感じたという。「海外の選手は勝ちに貪欲なので、どうしてもタフで長い試合になる。こういった舞台で経験を積めたのは大きかったです」。身長が高くないが大舞台で活躍を続ける西岡良仁選手(日本/ミキハウス)やディエゴ・シュワルツマン選手(アルゼンチン)に憧れているという富田選手は「全豪オープンジュニア」に向けて、「プロを目指しているので、ジュニアのグランドスラムはその通過点だと思っています。たくさんの経験を積んでプロになりたいです。“全豪オープンジュニア”では1つでも多く勝つという目標ではなく、本気で優勝を狙っていきたいと思います」と力強く語った。
↑決勝にてプレーする富田悠太選手
↑優勝後インタビューに答える富田悠太選手
今大会グループステージから決勝まで5試合すべてストレート勝ちを収めた辻岡選手は、試合中に意識したことに関して、第1セットを取っても、第2セットで油断しないようにしたと話す。今大会のように日本で国際大会が開催されることについては、「日本での国際大会なので自分にとってはテニスがしやすい環境でした。とてもありがたいなと思います」と感謝を述べた。イガ・シフィオンテク選手(ポーランド)のような前に入るテニスを武器にしている辻岡選手。ジュニアのグランドスラムは今年の目標でもあり、テニスを始めたときからの夢だったと明かし、「本当に嬉しいですが、出るだけじゃなくそこで勝てるように頑張りたいです。自分よりも強い選手がたくさんいると思うので、その中で自分のテニスでどれだけチャレンジができるか、挑戦します」と意気込んだ。
↑決勝にてSalakthip選手と対戦する辻岡史帆選手
↑優勝後のインタビューに答える辻岡史帆選手
住友ゴム工業(株)と日本テニス協会をはじめ、ダンロップ、そしてオーストラリアテニス協会のサポートにより実現した、夢の舞台で活躍するチャンス。「出場することがゴールではなく、結果を残したい」と宣言する富田選手と辻岡選手が本大会を勝ち抜き得た自信を胸に、オーストラリアでどんな活躍を見せてくれるのか、期待したい。
次回の連載第2回では、「全豪オープンジュニア」を直前に控える2人にインタビュー。大会へ向けての意気込み、勝つためのトレーニングの秘訣などについてお伝えする予定なので、お楽しみに。
(WOWOWテニスワールド編集部)
※アイキャッチ写真は全豪オープンジュニアへのワイルドカードを手にした辻岡史帆選手(左)と富田悠太選手(右)