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アルカラスが示した男子テニスの新時代到来。そこで生き残る条件とは

写真は「全米オープン」でのアルカラス

若手の大躍進が印象に残る全米オープンだった。19歳のカルロス・アルカラス(スペイン)が四大大会初優勝とランキング1位を同時に手にした。1973年に現行のランキングシステムがスタートしてから、10代選手のナンバーワンは例がなく、史上最年少の1位となった。

準優勝のルードもまた、今大会の勝者だ。決勝は4セットで決着したが、獲得ポイント総数はアルカラスの127に対し、122とわずか5ポイント差だった。ルードが7試合に費やした時間は21時間47分。四大大会の最長記録を更新したアルカラスの23時間40分には及ばないが、12年に優勝したアンディ・マレー(イギリス)による全米最長の21時間51分に迫る長時間の奮闘だった。

開幕前のランキングでアルカラスは4位、ルードは7位で、両者とも1位奪取の可能性があったが、いくら好調でも、さすがに優勝、ランキング1位はないだろう、というのが一般的な見方ではなかったか。ノバク・ジョコビッチ(セルビア)は出場しなかったが、昨年の覇者ダニール・メドベージェフ(ロシア)や今年の全豪と全仏を制したラファエル・ナダル(スペイン)など有力な優勝候補が並び、よもや二人が抜け出し、1位争いをするとは想像しにくかった。新しい時代の到来、と言いたくなるような活躍だった。

アルカラス、ルードとも、大会終盤で目立ったのはメンタルの強さだ。ルードは、感情や身体的な疲れを相手に見せない「演技」について語っている。

「うまくいかないときほど、人は感情を表に出すものだが、僕はいつも冷静でいることを心がけている。フラストレーションで、はらわたが煮えくり返っているときもあるが、それを相手に見せないようにしている。悔しがっているのが伝われば、相手が少し有利になる。スポーツには演技が存在する。テニスは特に。あらゆる些細なものごとが勝つための助けになる。それくらい、精神的、心理的なゲームなんだ」
また、準決勝でアルカラスに敗れたフランシス・ティアフォー(アメリカ)は言う。

「彼はとんでもない選手だ。長い間、やっかいな対戦相手であり続けるだろう。僕にもチャンスがあった。でも、あの若さで、大事な場面であれだけ冷静でいられるとは、彼に脱帽し、リスペクトする」

そして、アルカラスとルードが今大会で見せたコートカバーリングと、その土台となるフィジカルの素晴らしさが、テニスが新しい時代に入ったことを伝えているように思う。決勝こそ、疲労や緊張などで両者の動きは100%ではなかったが、準決勝までは素晴らしいフィジカルバトルが見られた。コートの外に追い出されても、アルカラスやルードにとってはピンチではない。一流のフィジカルとコートカバーリング力は、ピンチを一転、チャンスに変える。すなわちカウンターショットだ。

ルードはアルカラスの「動き」について見解を詳しく述べている。

「彼がたくさん持っている武器の一つだ。対戦相手は、ウィナーを打つためにはラインをなぞるショットを打たなければならないと感じるだろう。そんなショットでも十分ではない場合もある。彼はとても速い。彼はとても機敏だ。動きが素晴らしい。見たこともないような動きでボールに追いつく」

さらにルードは、アルカラスの動きをナダルやジョコビッチ、ロジャー・フェデラー(スイス)になぞらえて語る。

「ノバクやラファ、そしてフェデラーは、どれだけ動けるか、という基準を示してくれた。ラファもカルロスと同年齢の頃は、同じように全部のボールに追いついた。誰もウィナーを打てなかった。ノバクは柔軟性のおかげで同じことができる。『そんなことができるのか』と思うようなショットが打てる。カルロスは、その両方を兼ね備えているようなところがある。速くて、柔軟性がある。スライドして動くこともできる」

ルードの言い方にならえば、アルカラスも現在の男子テニスにおける「基準」を示したことになる。言い換えれば、男子ツアーで生き残るための「条件」だ。すなわち、動きの良さと、それを土台とする守備力とカウンターの鋭さ、精度である。その守備とカウンターに耐えきれない選手は、世代に関係なく、上位からこぼれ落ちていくだろう。

12日に更新されるランキングでは、アルカラスとルードが1位と2位を占めることになる。今大会活躍した若手に、アルカラスと高速ラリーが続く5時間15分の熱戦を演じ、マッチポイントまでたどり着いた21歳のヤニク・シナー(イタリア)もいる。彼も「基準」をクリアしているのは明らかだ。アルカラスのコーチ、フアンカルロス・フェレーロも「僕が見た限りでは、シナーとカルロスは今後10年ほどツアーを支配できるのではないか」と話している。

アルカラスがツアーの旗手となるのは間違いない。その背中を23歳のルードと21歳のシナーが追いかける。もちろん、ナダルやジョコビッチ、メドベージェフら元(前)の1位も黙ってはいない。しばらくスリリングなトップ争いが見られるはずだ。

(秋山英宏)
※写真は「全米オープン」でのアルカラス
(Photo by Diego Souto/Quality Sport Images/Getty Images)

秋山英宏

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1961年生まれ。大学卒業後、フリーランスライターとしてスポーツ、レジャー分野を中心に雑誌、新聞で執筆活動を行なう。1987年からテニスの取材を開始し、グランドスラムをはじめ、国内外の主要トーナメントを取材。テニス専門誌に多くの観戦レポート、インタビュー記事などを執筆している。現在、日本テニス協会広報委員会副委員長を務め、同協会の出版物やメールマガジンなどにも寄稿している。

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