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四大大会23勝のセレナ。人種差別を乗り越え、育児にも全力のテニス人生とは

全米オープン3回戦でのセレナ・ウイリアムズ

今大会限りでの現役引退を示唆していたセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)が3回戦でアイラ・トムヤノビッチ(オーストラリア)に敗れた。40歳の身体に残ったエネルギーを出し尽くす、3時間5分の戦いだった。最後のゲームでは5度のマッチポイントをしのぎ、意地を見せた。セレナがそのゲーム、すなわち現役生活最後の瞬間を振り返った。

「前にもやはり1-5まで追い込まれたことがあるけれど、挽回した。私は本当にあきらめないんです。キャリアを通じて、あきらめたことはありません。試合を投げ出したことはないんです。今日も間違いなくあきらめていなかった。ファイトし続けよう、もっとスピンをかけて打っていこう、それだけ考えていました」

どんな状況でもあきらめない、ファイトし続ける、そうやってセレナは四大大会で23回のシングルス優勝を積み重ねた。記者会見で〈みんなに記憶しておいてもらいたいのはどんなことでしょう?〉と聞かれると、こんな答えを返した。
「ファイトかしら。私はすごいファイターなんです。そうですね、私はテニスに何かをもたらしたと思います--さまざまな外見、拳を突き上げるポーズ、狂おしいほどの激しさ、情熱--これは本当にいい言葉だと思います。そう、アップダウンを繰り返しながら続けていくことも」

四大大会のセンターコートでトロフィーを掲げる晴れやかな笑顔を何度も見た。もちろん、激しさや情熱、すなわち派手なガッツポーズや雄叫びも。ただ、思い通りにならない試合展開にもがき、それでもファイトするセレナの姿も深く印象に刻まれている。トムヤノビッチとの3セットを見たあとでは、余計に苦闘するセレナが思い出される。例えばこんな姿だ。

03年全仏で、セレナは準決勝でジュスティーヌ・エナン(ベルギー)に敗れた。奇妙な試合だった。最終セット中盤、セレナは相手のショットに「アウト」のジェスチャーを見せた。次のゲームでも同じ行為があった。すると観客席から激しいブーイングが起きる。判定に予断を与えかねない「セルフジャッジ」を観客が批判したのだ。以後、セレナのミスには手拍子が起き、ファーストサーブのフォルトにも拍手が起きた。隣国人のエナンを応援する意図があったにしても、行きすぎだ。敗れたセレナは、自分を見失ってしまったのか、主審との握手も忘れ、足早にコートを去った。

記者会見でブーイングについて聞かれると、その目から涙があふれた。「容赦なかった。自分と敵対する観客に直面するというのは本当につらい」。こう話したセレナは「私はこれまでずっと闘わなければならなかった。テニス以外のもう一つの闘いだった」と続けた。
何と闘ってきたのか、強すぎるからなのか、アフリカ系アメリカ人だからか、と記者の追求は続いたが、セレナは最後まで闘いの対象を明かさなかった。

だが、人種差別や偏見との闘いであったと見て間違いないだろう。セレナは01年のインディアンウェルズ(アメリカ)でも観客からブーイングを浴び、涙した。ウイリアムズ陣営はブーイングに人種差別が関係しているとして大会側と対立、セレナと姉のビーナスはそれから10年以上、この大会に出場しなかった。全仏でのブーイングに人種差別的な意味合いがあったのか、今となっては不明だが、理不尽なブーイングにセレナは悪意や何らかの意図をくみ取ったのだろう。

こんな、見えない敵ともファイトしなければならないテニス人生だった。人種差別は世界に根強く残るが、20年には大坂なおみが人種差別への抗議活動に積極的にかかわった。よく知られているように、大坂はセレナを尊敬し、目標としてきた選手だ。

コートの外では、こんな“闘い”もあった。17年に娘のオリンピアちゃんを出産すると、育児とテニスの両立に悩まされた。赤ちゃんの世話を人任せにして、コートに出掛けて練習することに罪悪感を覚える瞬間もあったという。産後うつであることを明かし、SNSには「気分が落ち込んで、自分が良い母親ではないと感じた」と心境を綴ったこともある。

それでも、子育てに全力で取り組んだ。引退の意向を明かした雑誌『ヴォーグ』のインタビュー(インターネット版)でも育児について話している。
〈テニスの実績を積むのか、家族を育てるのか、どちらかを選ばなければならないとしたら選ぶのは後者だ〉
〈自分は子どもの面倒をよくみる母親だと思う。夫からは「面倒見すぎ」と言われているぐらいだ〉
18年ウインブルドンでは、準優勝のスピーチで「すべてのお母さんたち! 私は頑張りましたよ」と、自分と同じように仕事と育児に励む同性にエールを送った。

闘いはコート上に限らなかった。開拓者として、多くの障害物と闘った。決して勝ち続けのテニス人生ではない。手ごわい障壁に行く手を阻まれ、「アップダウンを繰り返し」、ここまで来た。そこに、23回の優勝と同じくらいの価値がある。

(秋山英宏)

※アイキャッチ写真:全米オープン3回戦後のセレナ Photo by Robert Prange/Getty Images
※記事中写真:2018年ウィンブルドン表彰式でのセレナ Photo by Simon Bruty/Any Chance/Getty Images

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秋山英宏

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1961年生まれ。大学卒業後、フリーランスライターとしてスポーツ、レジャー分野を中心に雑誌、新聞で執筆活動を行なう。1987年からテニスの取材を開始し、グランドスラムをはじめ、国内外の主要トーナメントを取材。テニス専門誌に多くの観戦レポート、インタビュー記事などを執筆している。現在、日本テニス協会広報委員会副委員長を務め、同協会の出版物やメールマガジンなどにも寄稿している。

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