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「選手がリスペクトされていない」。SNSでの惨状を含め、キリオスが怒りの告発

写真は「ウィンブルドン」でのキリオス

長くテニスを見てきたが、記者会見の場で、すしをつまむ選手を初めて見た。1回戦のあとのニック・キリオス(オーストラリア)である。トレーで持ち込み、上から醤油をかけて、記者とのやりとりの合間にフォークで食べた。よほど空腹だったのか。同情的に見るなら、試合後はクールダウンからシャワー、体のケア、栄養補給に記者会見と、やるべきことが山ほどあるので、時間節約で2つを同時にこなしたのだろう。

歯に衣着せぬ発言を繰り返し、ときにメディアと敵対するキリオスだけに、批判も承知で、あえて行儀悪く振る舞ったとも推察できる。この日の試合では、観客のヤジに腹を立て、観客席に向けてつばを吐く仕草を見せた。これを批判されると見越して、わざと偽悪的な態度をとったのか。だとしたら、ガキ大将と同じだが。

取り上げたいのは彼のお行儀うんぬんではなく、記者会見で話した内容だ。観客のヤジと自身の反応について聞かれたキリオスはこう答えた。

「観客からたくさんの無礼な言葉が飛んだ。僕は今じゃそれが普通なんだと思い始めている。だけど、これは普通のことなのか」

対戦相手は地元イギリスの選手。身びいきのあまり、ひどいヤジが飛んだのだろうか。内容については「純粋に無礼なこと」としか答えなかったキリオスだが、つば吐き行為を認め、こう弁明した。

「彼(観客)は、どちらの選手も応援しようとは思っていなかった。あおったり、軽蔑したりするためだけに、そこにいた」

キリオスの怒りはまだ収まらない。

「ソーシャルメディアがそうであるように、あらゆる物事に否定的なコメントをする権利があると思っている人たちが、全世代に広がっているのだと思う。それが実生活にも持ち込まれている。僕が何か言い返したらトラブルになるから、彼らは言いたいことを何でも言えると思っている」

キリオスは3月のインディアンウェルズ(アメリカ)の大会で大坂なおみが観客席から心ない言葉を浴びせられ、ひどく動揺した一件を引き合いに出し、思いをぶちまけた。

「人々、観客は、すぐに否定的な形で他者にエネルギーをぶつけようとする。ソーシャルメディアでも、誰かを叩くだけで責任をとることはない。今は人種的な虐待であろうと、単に無礼な言葉であろうと、受け入れられてしまう。なぜそれが許されるのか」

キリオスはSNSでも「気分が悪くなるような」ヘイトメッセージを受け取っているとを明かし、憤った。

「僕はこれまで、誰かの仕事場に行ってつばを吐いたり、彼らに無礼な態度をとったことは一度もない。なぜ彼らがアスリートにそんなことをするのか理解できない。なぜ、彼らは許されると思っているんだ。スポーツの世界では、どんどんそうなっている。観客が選手に対して無礼な態度を取る。それはいいことじゃない」

女子ダブルスに出場した加藤未唯も、試合後にSNSのアカウントに寄せられたひどいメッセージに傷ついたことを明かした。試合が賭け(ベッティング)の対象になっていて、賭けに負けた腹いせが当人のSNSに集まるのだ。加藤に限らず、下部ツアーに参戦する選手まで含め、同様の事態が多くのテニスプレーヤーを悩ませ、傷つけている。

キリオスの場合はこれに加え、彼の言動を快く思わない人、あるいは差別主義者からの攻撃的なメッセージがあると思われる。

「有名税」というような曖昧な言葉では片づけられない。選手のメンタルヘルスにも大きくかかわる。「選手がリスペクトされていない」とキリオスは言う。本質はそこにある。お騒がせ男のキリオスが、今度は観客に向かってつばを吐いた、会見場ですしをつまんだ、と笑い話で済ませられる問題ではない。

(秋山英宏)

※写真は「ウィンブルドン」でのキリオス
(Photo by Simon Stacpoole/Offside/Offside via Getty Images)

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秋山英宏

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1961年生まれ。大学卒業後、フリーランスライターとしてスポーツ、レジャー分野を中心に雑誌、新聞で執筆活動を行なう。1987年からテニスの取材を開始し、グランドスラムをはじめ、国内外の主要トーナメントを取材。テニス専門誌に多くの観戦レポート、インタビュー記事などを執筆している。現在、日本テニス協会広報委員会副委員長を務め、同協会の出版物やメールマガジンなどにも寄稿している。

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