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選手層が一気に厚みを増したテニス界。日本勢の地盤沈下を食い止めよ

ウィンブルドンでのダニエル太郎

錦織圭も大坂なおみも出場していないウィンブルドンで、日本勢の苦しい戦いが続いた。シングルスでは男子の西岡良仁、ダニエル太郎、女子の土居美咲が初戦敗退。予選を勝ち上がった女子の本玉真唯だけが、相手の途中棄権で1回戦を突破した。ただ、その本玉も2回戦でフランスの77位の選手に完敗した。
錦織、大坂を欠いてなお、男女とも複数の選手が本戦に出ているのはいいことだが、勝ち星が増えていかないと、我々取材陣もどうも気勢が上がらない。

5月下旬に開幕した全仏でも日本勢は振るわなかった。大坂を含む男女4人がシングルスで本戦に出場し、全員1回戦敗退に終わった。四大大会のシングルスで日本勢が一人も2回戦に進めなかったのは、2011年全米以来、11年ぶりだった。
日本選手が急に弱くなったというのではないだろう。新鋭が台頭、ベテランも健在で、厚みを増すツアーで日本勢が苦戦を強いられていると見るべきだ。特に男子ツアーにそれが顕著だ。ダニエルがツアーの現状を話してくれた。

「コロナ(禍のツアー中断)で、若い選手たちがもっとトレーニングする時期ができた。大会が始まり、ルーネ(オルガ・ルーネ=デンマーク)とかムゼッティ(ロレンツォ・ムゼッティ=イタリア)とか、そういう選手がどんどん--有名な、話題になっている選手だけじゃなくて、今、イタリアのチャレンジャー(下部ツアー)に行ったら誰も知らないような19歳でも上手い人たちがたくさんいるし、フランスでもそう。日本の選手たちが今、苦労してるのは、ランキングを見ていれば当たり前」

日本勢のランキングを見てみよう。男子に100位以内の選手はいない。101位に西岡、114位に錦織、118位にダニエル。200位以内はこの3人だけだ。女子は42位に大坂、108位に土居、139位に本玉がいて、177位の内島萌夏、189位の内藤祐希が続く。2桁のランキングは大坂ただ一人だ。
男女とも選手層に厚みが増し、近いレベルの競争相手が格段に増えたことで、日本勢のランキングがじりじりと下降しているのだ。錦織、大坂が故障がちという事情はあるが、全体的に日本勢の地盤沈下が起きているのは確か。全仏とウィンブルドンでの不振は決して偶然ではないだろう。

ダニエルの見解では、誰が悪いのでもなく、また、日本選手だけが苦しんでいるのでもないという。それくらい、世界のテニスが激しく推移しているのだ。カルロス・アルカラス(スペイン)の台頭、全仏でのキャスパー・ルード(ノルウェー)やルーネの活躍など、事例には事欠かない。ダニエルを破った世界ランク35位、21歳のセバスチャン・バエス(アルゼンチン)も台頭してきた若手の一人だ。身長は170センチと小柄だが、守備力を土台に、高い技術と戦術を駆使する。
「動きがすごくいい。こういうタイプの選手は、例えば7年前だったら、ボールがもっと弱く来るはず。でもバエスは、結構強く打てるし、あの身長にしたらサーブも遅くはない。だから、みんながほとんど何でもできるような感じになってきている。なにか明らかな弱点があるような選手ももういない」

ダニエルが語るバエス評は、男子ツアーの現状でもある。すなわち、層が厚いというのは、弱点がなく、高い平均点と総合力を持った上で、武器や個性がある選手ばかりになったという意味でもある。守備力が武器の選手でも速いボールが打てる、ストローカーでありながら強いサーブも持っている。ダニエルには「何年か前に比べたら(自分から)ミスしてくれる選手もいなくなってきている」という言葉もあった。

ダニエルはそうした現状に対応するため、攻撃的なスタイルに大胆な転換を図った。「もっと積極的にいかなきゃいけない」。そうして、戦術と技術の両面を「極めていかなきゃいけないと感じている」という。
ダニエルはこうして解決策を見つけたが、日本のテニス界も積極的な対策を打つべきだろう。
国内ではコロナ禍の20年、21年と国際大会がほとんど開かれず、海外遠征も制限された。鎖国状態のような2年の間に、世界の波に乗り遅れたのではないか。
ダニエルは「日本のテニスに対するサポートも、オリンピックの前と後で全然変わってきている」とも話している。確かに今季は強化責任者やナショナルコーチの四大大会への派遣が縮小傾向にある。日本テニス協会の関係者によると、これから伸びてくる若手に強化の予算を多く振り向けていることが理由だという。〈若手選手の育成を目的に、人的サポートの対象をトップから若手へ段階的に移行している〉というのが説明だ。

限られた予算でのやり繰りなら、仕方がない。若手が多く出場する下部ツアーなら、かえって世界の傾向が読み取りやすいだろう。情報をしっかり取り、それを強化と育成の現場に行き渡らせることが求められる。作業の停滞は許されない。

(秋山英宏)

※アイキャッチ写真:ウィンブルドンでのダニエル太郎(Photo by Julian Finney/Getty Images)
 記事中写真上:ウィンブルドンでの本玉真唯(Photo by David Horton - CameraSport via Getty Images)
 記事中写真中央:ATPローマでのロレンツォ・ムゼッティ(Photo by David Horton - CameraSport via Getty Images)
 記事中写真下:ウィンブルドンでのセバスチャン・バエス(Photo by Julian Finney/Getty Images)

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秋山英宏

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1961年生まれ。大学卒業後、フリーランスライターとしてスポーツ、レジャー分野を中心に雑誌、新聞で執筆活動を行なう。1987年からテニスの取材を開始し、グランドスラムをはじめ、国内外の主要トーナメントを取材。テニス専門誌に多くの観戦レポート、インタビュー記事などを執筆している。現在、日本テニス協会広報委員会副委員長を務め、同協会の出版物やメールマガジンなどにも寄稿している。

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