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ナダルと激闘を演じたオジェ アリアシム。怪物誕生近しの予感

全仏オープン2022でラファエルナダルと対戦するフェリックスオジェアリアシム

注目された第5シードのラファエル・ナダル(スペイン)と第9シード、フェリックス・オジェ アリアシム(カナダ)の4回戦は、期待通りの熱戦となった。所要時間4時間21分。試合の流れは大きく蛇行しながら両者の間を行き来した。

オジェ アリアシムは大会開幕の時点で全仏未勝利。20年には西岡良仁に、昨年はアンドレアス・セッピ(イタリア)に、ともに初戦で敗れていた。クレーコートでは通算31勝27敗と、トップ10選手としてはやや物足りない数字が残っていた。しかし、この4回戦ではクレーコートで470勝45敗のナダルにまったく引けをとらなかった。
機能したのはサーブからの速い攻めだ。エースは5セットで7本と、驚くような数字ではない。しかし、サーブを起点に3本目(ラリーの1本目)で優位に立つ場面が目立った。

「彼にはビッグサーブがあり、フォアハンドで放つ最初のショットがとても攻撃的なので、押し下げることができないと、彼をコントロールするのはとても難しい」とナダルは試合後、相手の先制攻撃に手を焼いたことを明かした。
第1セット、オジェ アリアシムのファーストサーブ時のポイント獲得率は73%に達した。このセット、ラリー数「0~4本」での得失点は25:19とナダルを上回った。また、セットカウント1-2からの第4セットも0~4本のラリーで23:17とナダルを圧倒。これがそのままスコアの差につながった。
ナダルが第4セットを失ったとき、ローランギャロスの記者室には何とも言えない空気が流れた。「クレーの王様」の危機、この全仏で、あってはならないことが起きるかもしれない、と。

しかしオジェ アリアシムは好機を生かせなかった。最終セット3-4からのサービスゲームで、ナダルに奪われた4ポイントは、すべてウィナーかそれに近いショット(フォーストエラー)だった。リターンとストローク、特にフォアハンドの圧力に、オジェ アリアシムのビッグサーブが霞んだ。
ブレークに成功したナダルのプレーがさらに冴え渡る。5-3からのサービング・フォー・マッチはセカンドサーブのウィナーに始まり、ストロークのウィナーを連発。ナダルが現実とは思えないようなプレーを続け、オジェ アリアシムの挑戦が終わった。

「彼は必要なときにレベルを上げた。第5セットではとてもアグレッシブで、4-3からさらにレベルを上げてきた。正直、僕は悪いプレーはしていない。やるべきことはやった」とオジェ アリアシムは脱帽するしなかった。

クレーでナダルに勝つこと、しかも全仏で5セットにもつれた試合で勝つことは、テニス界で最も難しいと言われる。ナダルが過去にローランギャロスで喫した3敗は、3セットか4セットでのもの。5セットにもつれたのも過去に2試合だけで、ともに勝っている。ナダルを向こうに回し、5セットに持ち込んだことだけでも希有な出来事だった。

このオジェ アリアシムが全仏未勝利であったことが不思議だ。ただ、準備はできていた、と見るべきだ。
神童と呼ばれたオジェ アリアシムだが、四大大会で成績が出始めたのは、ついこの間のことだ。昨年4月にナダルの叔父で長くコーチを努めたトニ・ナダルがチームに加わったことが大きい。それまでのグランドスラムでは20年全米と21年全豪の4回戦が最高だったが、昨年はウィンブルドンで8強、全米で4強、今年の全豪で8強と、一気に壁を突破した。

オジェ アリアシムは今大会、トニについてこう話している。
「彼は、いくつかのポイントを改善し、よりオールラウンドなプレーヤーになれば、最高のレベルに達することができるという自信を与えてくれた。僕が取り組むべきこと、改善すべきことを話している。最初に会ったときから、優勝してランキングを上げることが目的であり、そのうえで年間ベースで向上させなければならないと考えていた。でも彼は、これから2年、3年とそれを続けることでベストプレーヤーの仲間に入ることができると言うんだ」

トニが伝えたのは、成績が上がっても満足、慢心するな、という戒めだろう。そう繰り返し教え込むことで、トニは甥のラファエルを頂点に押し上げたのだ。その指導ノウハウを今、オジェ アリアシムに注ぎ込もうというのだ。
身体能力といい、ボールにスピードを与える才能といい、素材としては抜群だ。ただ、相手に対する適応力、修正力という点が物足りなかった。このナダル戦でも、第3セットはやや低調だった。このあたりも「取り組むべきこと」のひとつだろう。

「このような舞台で4時間戦い、自分自身を精神的、肉体的にテストし、最後に学びを得る。こうした難しい状況に身を置き、模索する。これはいいことだ」
オジェ アリアシムがこの敗戦から得たものだという。そうして課題を見つけ、一つ一つ解決していけば、やがて我々の前に、とんでもない怪物が姿を表すだろう。ナダルとの5セットはその予感に満ちたものだった。

(秋山英宏)

写真:Getty Images

秋山英宏

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1961年生まれ。大学卒業後、フリーランスライターとしてスポーツ、レジャー分野を中心に雑誌、新聞で執筆活動を行なう。1987年からテニスの取材を開始し、グランドスラムをはじめ、国内外の主要トーナメントを取材。テニス専門誌に多くの観戦レポート、インタビュー記事などを執筆している。現在、日本テニス協会広報委員会副委員長を務め、同協会の出版物やメールマガジンなどにも寄稿している。

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