一定の年齢のテニス選手たちは、ビヨン・ボルグ(スウェーデン)やメアリー・ジョー・フェルナンデス(アメリカ)のように伝説的な強打型の選手たちの練習習慣について、次のような大ぼらを聞いたのを覚えているかもしれない。「ボルグはクロスコートへ打ち込む練習に1週間費やし、その次の週はダウンザラインに打つ練習に1週間を費やす」とか、「メアリー・ジョーは家に帰るまでに、連続で1,000打のショットを打たなければいけない」といった話だ。こうした逸話は、プロのように練習するには、山ほどボールを打つ必要があり、プロになるためには、ミスは許されないというメッセージを伝えるものだった。
それから40年を経た今、このメッセージは大して進化していない。練習となると、未だに反復することが強調される。そしてこれは、ストロークを良くしようとしている選手たちには納得がいくものだ。筋肉の記憶に代わるものなどないのだから。しかし、テニスはボルグやフェルナンデスの時代からは変化している。そして、どうやって試合に勝つかについての我々の知識も深まった。我々の練習習慣もそれに追いつくべき時が来ている。米テニスメディアBaselineが、現代にふさわしい8つの練習ステップを紹介している。
現在のテニスで重要とされるのは、「サーブ・プラス・ワン」、先に攻撃すること、フォアハンドでラリーを支配すること、そして相手にエラーをさせることだ。ラリーの7割は4打以下で終わるということがわかっている中で、なぜ全てのポイントで100打に及ぶ長いラリーに勝たなければいけないかのように練習をしているのだろうか。サーブとリターンが最重要のショットであることがわかっているのだから、なぜそれらにもっと取り組まないのか。プロは優位に立つために分析やスポーツ心理学者を使っていることがわかっているのだから、我々も彼らに続くことができるだろうか。
こうした疑問を念頭に置いて、テニスのトレーニングの最先端にいる2人のコーチに相談をした。クレイグ・オシャネシー氏は、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)を含む何十人ものプロ選手に、分析に基づいた助言を与えてきた。ジェフ・グリーンウォルド氏はスポーツ心理学のコンサルタントであり、「人生最高のテニス:恐れ知らずのパフォーマンスのための50の心理的戦略(The Best Tennis of Your Life: 50 Mental Strategies for Fearless Performance)」の著者だ。
2人は「脳のゲーム、テニス(Brain Game Tennis)」というウェブサイトで、選手たちが試合中に分析とスポーツ心理学を活用するのに役立つコースをまとめた。ここからは、これらをトレーニングメニューに組み込み、我々の練習ルーティンを現代的なものにするための段階別の計画を解説する。今回は前編として、最初の3つを紹介しよう。
1.ビデオを使う
より効率的に練習するための最初の一歩は、自分が具体的に何を練習すべきかを知ることだ。「伝統的に、選手たちは外に出てただボールを打ち、ストロークを改善しようとしていました。本当の試合の状況をシミュレーションすることに注力すれば、時間をもっと有効に使えるでしょう」とオシャネシー氏は語る。
自分がいつどのようにしてポイントを失っているのかを明らかにすることから始めよう。リターンに失敗しているのか?苦手なストロークを頻繁に打ちすぎているのか?コートの特定の位置から特定のショットを放っているのか?答えを見つけるための一番簡単な方法は、試合中の自分を録画することだ。
そこから自分が苦戦しているショットや場面を特定して、練習でそれらに取り組むことができる。自分の欠点にどれほど素早く気づくものか、そしてそれらに対する解決策がどれほど明確かに驚くかもしれない。
2.練習にプレッシャーをかける
グリーンウォルド氏によれば、ビデオや統計は、練習をより具体化し、トレーニングに心理学を注ぎ込むことを可能にしてくれるものだ。「これを“計画的な練習”と言います。一覧にしたことに取り組むのではなく、特定の目標への集中を深めるのです」
フォアハンドとバックハンドを打つよりも、サーブ・プラス・ワン(サーブとその次のショット)、あるいはフォアハンドでの決め球、または自分が苦手なベースラインでのパターンを磨くことに練習時間を費やそう。練習コートで試合の状況を再現することで、それに伴って試合の時のプレッシャーもある程度再現されるだろう。
「選手から言われる苦情で一番多いのは、練習の時ほどうまくプレーできないというものです。練習にいくらかストレスを加えれば、試合中の不安に自分を慣らすことができます。このため、大事な時にのびのびプレーすることが気分的に楽になります」
3.何かを賭ける
「試合にスムージーを賭けた時に何が起こりえるかは、驚くべきものです。みんな急にすごく真剣になるんです」とグリーンウォルド氏は笑いながら話す。
練習と試合の違いとは、褒美があるかないかだ。全てのテニス選手が知っているとおり、この世に存在する違いはそれに尽きる。しかし、グリーンウォルド氏によると、あまりに多くの人々がその2つの領域を分けておきたがるのだという。
「11ポイント先取のベースライン・ゲームで10オールになった時、次のポイントで勝負が決まるサドンデス方式を望む人はいません。普通は“2ポイント差で勝利”です。サドンデス方式にして自分にプレッシャーをかけてみてはどうでしょう?」
競い合う時は、今少し目的をもってプレーできるよう、何かちょっとしたものを賭けるようにしてみよう。特定の相手と定期的に練習試合をするなら、試合結果に夕食を賭けて自分に厳しくしよう。先に10試合で勝った方の好きなレストランで食事をすることができることにして、負けた方が支払いをするのだ。
後編に続く!
(WOWOWテニスワールド編集部)
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