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「アシュリーは最高の選手」。バーティにコーチが最大級の賛辞を贈る理由

全豪オープンでのアシュリー・バーティ

マッチポイントでのアシュリー・バーティ(オーストラリア)のフォアハンド・ウィナー--ダニエル・コリンズ(アメリカ)がどう頑張っても触ることさえ難しかったクロスのパスは、この決勝を象徴するショットだった。

地元オーストラリア勢として44年ぶりのタイトルが懸かる試合。「世界のどこでプレーしようが、どのラウンドでプレーしようが、テニスを楽しむ、試合で競い合うということには何の影響もありません」というバーティだが、さすがに硬さも見られた。サーブはこの試合でも得点源になっていたが、もう一つの武器であるバックハンド・スライスでチャンスを作る場面は数えるほどだった。それが第2セットの大苦戦につながった。
 回転量の少ないフラット系のボールと、タイミングの早さで相手を押し込むコリンズは、バーティのスライスにも完璧に対応してきた。第2セットは1-5と大きく離された。すると、バーティは大胆に戦術を変えた。
 スライスに頼らず、フォアハンドでチャンスを作り、フォアハンドでウイニングショットを決める。思い切りのいいフォアの逆クロスで押し込み、がら空きになったコートに決定打を打つ。セットアップが完璧だから、ウイニングショットのリスクはほぼ0に等しい。大胆かつ細心な攻めで挽回し、タイブレークでも相手に重圧を与え続けた。総仕上げが、マッチポイントでの、あの完璧なフォアのパスだった。

激しく追い上げた第2セットをバーティが振り返る。
「1-5になってからは何かを変えようと思い、もう少しアグレッシブに攻めて、戦術的にもいくつか調整をして、仮に第3セットに入っても流れをつかめるようにしました」
 これだけ大差がつけば、このセットは無難に終わらせて最終セットに備えようとする選手もいるだろう。主導権を奪われてパニックに陥るより、よほどいい。しかし、バーティはそのどちらでもなかった。「フォアハンドでラリーを支配できるようになった」というバーティが再び主導権を奪ったのだ。
「ミスするかどうかはあまり気にしませんでした。個々のポイントの結果より、試合の様相を変えたかった」とバーティ。このマインドセットが功を奏した。極言すれば、バーティにタイトルをもたらしたのは、この超一流のゲームマネジメント能力だ。
 この能力についてコーチのクレイグ・タイザーが面白いことを言っている。
「うまくプレーできないときでも、うまくプレーしているように見えて、なおかつ勝負できるというのが彼女の能力だと思います。マージンを増やしてもっと安全にやるか、何かを修正するか、何か違うことを試すか、そんなふうにして、彼女はあまり調子がよくない状況にも対処できるようになった」

第2セット中盤まで、ベースラインの中に入って攻撃的にプレーしていたのはコリンズだった。明らかにバーティはうまくいっていなかった。それでも、彼女には次善の策を繰り出す冷静さと頭の良さがある。
 タイザーコーチはこの切り替えを技術面から分析し、「ボールの後ろ側を捉えるようにして、よりフラットに近いボールが行くようになり、感覚がよくなったようだ」と話している。バーティが、この窮地で戦術的、技術的な立て直しを瞬時に行ったことが分かる。
 だから、タイザーコーチは教え子のバーティに最大級の褒め言葉を贈るのだ。
「アシュリーのようなアスリートと仕事ができるなんて、私はなんと幸運なのか。彼女は私がこれまで一緒に仕事をしてきた中で最高のアスリートであり、最高のテニスプレーヤーです。コーチとして彼女に巡り会えたことは夢のようです」
 バーティにとっては3つめのグランドスラムタイトルとなった。19年全仏のクレー、21年ウィンブルドンの芝、そして今大会のハードコートと3つの異なるサーフェスで頂点に立ったことになる。現役選手ではセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)に続く快挙だ。また、オーストラリア選手による地元全豪のシングルス優勝は78年のクリス・オニール以来となる。
 今季もバーティが女子ツアーの太い柱となるのは間違いない。大坂なおみ、あるいはイガ・シフィオンテク(ポーランド)といった実力者にも、その地位を奪うことは容易でないはずだ。

※写真は全豪オープンでのアシュリー・バーティ
(Getty Images)

(秋山英宏)

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秋山英宏

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1961年生まれ。大学卒業後、フリーランスライターとしてスポーツ、レジャー分野を中心に雑誌、新聞で執筆活動を行なう。1987年からテニスの取材を開始し、グランドスラムをはじめ、国内外の主要トーナメントを取材。テニス専門誌に多くの観戦レポート、インタビュー記事などを執筆している。現在、日本テニス協会広報委員会副委員長を務め、同協会の出版物やメールマガジンなどにも寄稿している。

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