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苦しみ、あえぎながら復活への道を歩むマレーを選手たちが賞賛

写真は「全豪オープン」でのマレー

グランドスラムで3度の優勝を誇るアンディ・マレーをダニエル太郎が撃破。日本選手の快挙に胸躍らせた方も多いのではないか。内容も素晴らしかった。最高時速212キロをマークしたサーブや早い攻めでポイントを重ねる一方で、マレーの十八番であるロングラリーでも打ち負けなかった。バックハンドのダウン・ザ・ラインの切れ味と、このウイニングショットを繰り出すタイミングも素晴らしかった。マレーは「彼は盤石だった。よく動いていたし、勝つべき選手だった。でも、彼があんなプレーをすることは予期していたよ」と完敗を認めた。

マレーのアンフォーストエラーは49本に達した。「あれ?」というような凡ミスで長いラリーが終わるのは、以前の彼なら考えられないことだった。「落としてはいけないゲームがいくつかあった」とも話したが、こんなゲーム運びのミスも試合巧者の彼には似合わない。

前週、シドニーで行われた前哨戦で準優勝、ニコラス・バシラシビリ(ジョージア)との1回戦では3時間52分のフルセットをこなした。疲労の蓄積もあったと思われるが、マレーは「身体的には大丈夫だった」と疲れを理由にしなかった。

前哨戦で手応えを得ただけに、もう少し勝ち進み、復調への手応えを確かなものにしておきたかったはずだ。だから「本当に、本当に残念でならない。悔しいね。タフな負けだった」とマレーは悔やむのだ。

その準優勝で「復活」に大きく近づいたからなのか、この大会ではほかの選手からのマレーへの賛辞が何度も聞かれた。もっとも熱がこもっていたのは、グリゴール・ディミトロフのこんな言葉だろう。

「彼は『もうおしまいだ』などと簡単にあきらめるような人ではない。あれ(股関節の故障)から、彼が成し遂げたのは並大抵のことではない。コートで動いている姿も見たが、やはり以前とは違う。それでも驚異だよ。素晴らしいことだと思う。毎日毎日、ストレッチやリハビリなど必要な処置をするはずだから、そのために毎日3、4時間は費やさなければならないだろう。家族や子どもたちや、あらゆるものを抱え、そのバランスをとっているのはすごい。自分らしく(キャリアを)終えたいという彼の考え方も理解できる」

ダニエルも2回戦での対戦が決まると、こう話した。

「とても尊敬している。生き方というか、ほんとにテニスが好きなんだなというのが伝わってくる。ここまで体にダメージを受けても、自分の好きなことを続けるために何でも犠牲にできる。スポーツに対する愛を感じるから、それを一番尊敬します」

ダニエルにとって幼い頃からのアイドルはロジャー・フェデラーで、テレビなどでマレーのプレーを見ることは少なかったが、何より尊敬するのは、そのテニスへの献身ぶりだという。

大坂なおみとマレーのツイッターでのやりとりも話題になった。マレーが大坂の試合を見て「ナオミ・オオサカよりクリーンにヒットできる人はいる?」とつぶやくと、大坂は「アンディ・マレーほど気持ちを込めて戦う人はいる?」と相手への賞賛で応えたのだ。

マレーの「引退セレモニー」が行われたのは3年前の全豪オープンでのことだった。

「(臀部付近に)ひどい痛みがある。この痛みとともにプレーを続けようとは思わない。やれることは全部やったが、よくならない。どこかで終止符を打つ必要があるのかもしれない。ウィンブルドンまではなんとかできるだろう。そこでプレーをやめようと思っている。でも、それさえできるかどうか分からない」

マレーの言葉は直接の引退表明ではなかったが、それが最後の全豪となる可能性を示唆していた。そこで、1回戦敗退の直後に大会側が惜別のセレモニーを行ったのだ。

しかし、不屈のマレーは股関節置換手術を経てツアーにカムバックした。復調への歩みは決して順風満帆とは言えず、今も困難な長い道のりを、あえぎながら前に進んでいるように見える。だからこそ、その後ろ姿が選手仲間の尊敬を集めるのだ。

2回戦でダニエルに敗れたあとの記者会見で「確かなことはまだ分からないとしても、来年も間違いなく戻ってきますよね?」と問われたマレーは、こう答えている。

「そうだね。まあ、でも、今日のような試合を何度もやってしまうようなら話は違う。今年はいろいろな意味でとても大事な年なので、大きな大会で結果を出したいんだ。今日のような出来では不十分だ。もっといい成績を残したい。今年の成績と、大事な大会での内容次第だね」

彼の活躍がもっと見たい、来年必ず戻ってくるという言葉が聞きたい、記者が質問したのは、そんな思いからだろう。「戻ってくるね?」と聞かずにはいられなかったのだ。質問に誠実に答えたマレーだったが、出場を確約することは避けた。

(秋山英宏 )

※写真は「全豪オープン」でのマレー
(Photo by Daniel Pockett/Getty Images)

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秋山英宏

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1961年生まれ。大学卒業後、フリーランスライターとしてスポーツ、レジャー分野を中心に雑誌、新聞で執筆活動を行なう。1987年からテニスの取材を開始し、グランドスラムをはじめ、国内外の主要トーナメントを取材。テニス専門誌に多くの観戦レポート、インタビュー記事などを執筆している。現在、日本テニス協会広報委員会副委員長を務め、同協会の出版物やメールマガジンなどにも寄稿している。

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