世界王者のノバク・ジョコビッチ(セルビア)がワクチン接種を免除される形で「全豪オープン」(オーストラリア・メルボルン/1月17日~1月30日/ハードコート)に出場することを発表し、各方面から大きな反響が起きている。伊ニュースサイト UBI Tennisなど複数のメディアが報じた。
ジョコビッチは現地4日に空港で撮った写真をSNSに投稿し、「ワクチン免除の承認を得て、今日オーストラリアに向けて発つ」とコメントを添えた。プライバシーの問題だとしてこれまでワクチン接種の有無を一切明かしてこなかったジョコビッチだが、この投稿によって接種していないこと、そしてその状態でワクチン接種を義務づけている「全豪オープン」に出場することが明らかとなった。
昨年12月にオーストラリアテニス協会(TA)が選手に送った書類によれば、下記4つの条件のいずれかに当てはまればワクチン接種の免除が認められるという。
●承認されている新型コロナウイルスのすべてのワクチンに対してアナフィラキシー(アレルギー反応)を起こしたことがある
●承認されているワクチンを初めて接種した際に入院または何らかの重大な障害・機能不全につながる「重篤な有害事象」を経験したことがある
●現在、急性の病状に苦しんでいる
●過去6ヶ月以内に炎症性心疾患を患ったことがある
ワクチンの免除を承認するのは免疫学、感染症、一般診療の専門医師によって構成された第三者機関であり、TAは一切関与していないとのことだ。申請の段階からプライバシーが厳格に守られるとされていたが、ジョコビッチは自ら名乗り出た。しかしながら、今回この特例を申請した選手やスタッフ合わせて26人のうち一握りにしか承認が下りなかったとされる中、ジョコビッチが上記のどの条件に当てはまって認められたのかはわかっていない。結果的にジョコビッチは隔離生活を送ることなく、ワクチンを終えている選手と同じように過ごすことができる。
これに対して最も反発しているのは現地オーストラリアの人々だ。同国では世界で最も長くロックダウンが行われており、入国はもちろんのこと、州をまたぐ移動も厳しく規制されている。「全豪オープン」が開催されるビクトリア州では昨年末、ワクチンを2回受けていなければ職場への出入りが禁止されるという厳しい措置が採られたばかりで、その流れを汲んで大会ディレクターのクレイグ・タイリー氏やダニエル・アンドリュース州首相も当初は「全豪オープン」のワクチン義務化に例外は一切認められないと強調していた。ジョコビッチの出場表明を受けてSNS上には次のようなコメントが投稿され、今年の「全豪オープン」は観ない、行かないなど、観客として大会をボイコットする声も多く挙がっている。
「ワクチンを接種したオーストラリア人は愛する人が死にそうでも州を越えて会いに行くことが許されないのに、ジョコビッチはテニスボールを打つために海外から(おそらくワクチンを接種していない状態で)ここに来ることが許される。信じられないことだ」
「ビクトリア州の人々はあんなにも辛い思いをしてきたところに、ジョコビッチがワクチンの免除を得たことは、まさに腹を蹴られるようなもんだわ。あれだけのロックダウンとあれだけの苦しみの後で、本気で言ってるの?」
一方でビクトリア州のスポーツ相は「プロセスはプロセスであり、誰も特別な扱いは受けていない。このプロセスは非常に厳格なものであり、個人情報を明かさずに行われる」と説明。タイリー氏も国民の怒りに理解を示しつつも、「最終的には、自分の状況や免除が認められた理由を公の場で説明するかどうかは彼が決めることだ」とジョコビッチの対応を擁護している。
テニス界からは、ダブルス元世界ランキング1位のジェレミー・マレー(イギリス)が言葉を濁しつつ、「僕だったら免除は認められなかっただろう。オーストラリアでプレーすることを許可された彼は良かったな」と述べている。「ATPカップ」でイギリス代表チームの監督を務めるリアム・ブローディ(イギリス)や同国元ナンバー1のレジェンド、アンドリュー・キャッスル(イギリス)は、ジョコビッチには正当な理由があるのだろうと、英BBCの取材に対して中立的な姿勢を見せた。
今大会でジョコビッチは10回目の「全豪オープン」優勝、21回目のグランドスラム優勝といった新たな記録を樹立できるのだろうか。ひとまず今はそういった競技面での話題よりも出場をめぐっての議論で持ちきりだ。
(テニスデイリー編集部)
※写真は2021年「全豪オープン」でのジョコビッチ
(Photo by Matt King/Getty Images)